最近、東北、北海道で相次いで震度5弱の地震が発生したうえ、先日は福島県沖でマグニチュード6を超える地震が発生し、東京でもかなりの揺れが感じられました。このような大地震が頻発すると、再び大規模な震災が起きるのではないかと不安に感じている方もいるのではないかと思われます。
ところで、直近の大震災である東日本大震災では、発生から3年が経過した現在においても未だ2000名を超える行方不明者がいるそうです。
このように、大きな震災は多数の行方不明者も生じさせるものですが、大地震やそれに起因した津波により、ある被災者Aさんが行方不明になった場合、Aさんの妻であるBさんやAさんの子であるCさんは、Aさんの財産が相続されたものとして遺産分割することはできるのでしょうか。
結論からいいますと、Aさんが行方不明のままでは相続は開始されず、Aさんの財産をBさん、Cさんの間で遺産分割することはできません。相続は「死亡」によって開始する(民法882条)とされている以上、死亡していることが確認できない「行方不明」という状態では、相続開始の要件を充足しないと考えられるからです。
そのため、Aさんが行方不明のままでは、Aさん所有の車や不動産を売却等することもできず、維持費や税金等だけがかさんでいくという困った事態が生じかねません。
このような状況を解消するため、我が国の法律上、2つの手段が用意されています。
一つは、民法上の失踪宣告制度です(民法30条)。これは、一定期間行方不明の状態にある人について、その人の死亡に利害関係がある人からの家庭裁判所への申立てに基づき、家庭裁判所が宣告することで、行方不明者を法律上死亡したものとみなすという制度です。相続人は利害関係がある人にあたりますので、BさんあるいはCさんが家庭裁判所に申立てをすることで、Aさんの失踪を宣告させることができます。
この点、失踪宣告は、行方不明になった原因に応じて、さらに普通失踪(民法30条1項)と特別失踪(民法30条2項)の2種類にわかれますが、震災のように大規模な自然災害に巻き込まれて行方不明になった場合は、「死亡の原因となるべき危難」に遭遇したものとして、特別失踪の対象になると考えられます。特別失踪の場合、失踪宣告の申立てを行うためには、Aさんが生死不明になる原因となった地震あるいは津波が止んだ日から、少なくとも1年間、行方不明であることが必要となります。そして、特別失踪の場合、Aさんが行方不明の原因となった地震あるいは津波が止んだ日に死亡したものとみなされるので(民法31条)、その日に相続が開始されることになります。
なお、東日本大震災の際には、行方不明者が多数となったことから、震災後1年を待たずして、通常の届出の際に必要となる死亡診断書等を添付することなく行方不明者の死亡届を提出させることを認める特例を設けたようです。今後の震災等の大規模な自然災害の際にも同様の措置がとられる可能性がありますので、頭の片隅に留めておくとよいかもしれません。
もう一つが、戸籍法上の認定死亡制度です(戸籍法89条本文、86条3項)。これは、「水難、火災、その他の事変」という一定の事由に基づく場合に限られますが、当該事由により、死体こそ発見できないものの確実に死亡したといえる人について、その取調べをした官庁又は公署(海上保安庁・警察署等)が死亡地の市町村長に死亡の事実を報告し、市町村長が死亡の事実を戸籍に記載することで、法律上死亡したものとして扱うという制度になります。
例えば、Aさんが大地震発生時に海岸線におり、高台に避難する途中で津波にのまれて流されていったという事実を目撃したとの証言があり、これを聴取した警察官が、Aさんが死亡したと認めて被災地であるZ市の市長に死亡の報告をした場合等が考えられます。なお、認定死亡の場合には、上記失踪宣告とは異なり、市町村長が戸籍に死亡の事実を記載した日が死亡の日と