相続問題

 いわゆる『相続問題』には、大きく分けて、①相続財産や相続人の範囲など「相続」そのものについて争いがあるパターンと、②相続税の負担を考慮せずに遺産分割を行ったことにより、「相続税の負担に苦しむ」ハメになるパターンの2通りがあると思われます。よって、これら2つの問題をクリアしなければ、「問題なく相続できた!」とは言えないでしょう。

 このうち②の相続税制については、過去のブログ記事にその概略が掲載されておりますので、今回は、①のうち、過去のブログ記事で扱われていないトピックである「遺産の評価」のお話をしたいと思います。

遺産の評価

1 はじめに

 遺産分割は、遺産を具体的相続分に応じて各相続人に公平かつ適正に分配することを目的とするものですから、その前提として、各遺産の価値を評価する必要があります。

 そして、各遺産の価値は、原則「遺産分割時」を基準に、以下のような方法で判断されます。

2 不動産

 原則、時価評価となります。公示価格(地価公示価格)、固定資産税評価額、相続税評価額といた公的な評価基準があるので、これらを参考として評価を行います。

3 不動産利用権、利用権負担付不動産など

① 借地権の負担付の土地(底地)
 更地価格から借地権割合を控除して評価されます。

② 借地権価格
 更地価格に借地権割合を乗じて評価するのが通例です。借地権割合の多くは、更地価格の60%から80%程度と言われています。

③ 借家権、貸家、借家付建物
 財産評価基本通達において定められた貸家及び貸家建付地の評価方法に従います。

4 預貯金、株式、動産

① 預貯金
 遺産分割時の預金通帳や残高証明を取得することにより、その価値が明らかになります。

② 株式
 上場株式など相場がある株式については、売買値段が公表されているので、それに基づき評価を行います。

 非上場株式の場合は、商法上の株式買取請求における価格の算定や税務上の評価基準である財産評価基本通達において採用されている方式が参考となります。非上場株式の評価について当事者の合意が成立しない場合には、公認会計士等の専門家の鑑定を必要とする場合が多いです。

③ 動産
 交換価値の低い動産については、わざわざ鑑定を行うことは不合理なので、評価について当事者の合意が得られるように努めるべきです。

 骨董品や高級腕時計などの高価な動産は、まず、来歴の不確かなものついては真贋の鑑定を要します。評価については、美術品商などの意見、美術の年鑑等に記載されている評価額、オークションにおける落札価格などの参考に評価することがあります。

念には念を

 こんな説明をしていると、『うちの親族はみんな仲が良いから、相続争いなんて醜いことはしませんよ!』という声が聞こえてきそうです。しかし、お金が絡むと、それまでは仲の良かった親族間であっても争いが生じてしまう可能性があります。そうならないためにも、「相続」が起きる前に、きちんと準備をしておく必要があるのです。

 また、『相続税なんて相続が発生してから計算すれば大丈夫』という考え方も非常に危険です。相続税は、負担が重い税金ですので、あらかじめ将来発生する相続税を計算し、税負担が大きい場合には、対応策を考えておかなければなりません。

 遺産の大半が不動産である場合には、多額の相続税が発生するにもかかわらず、現金がなく、納税のための資金が足らなくなってしまうという事態がよく発生します。

 このように、「相続自体の問題」と「相続税の問題」は、別問題ではあるものの車の両輪をなすものですから、「念には念を」の精神で、弁護士等の専門家の助力を得て、先まわりの準備をする必要があるでしょう。

弁護士 細田大貴