- Q.
- 父の遺言が見つかりました。もっとも、残された家族と話し合ったのですが、相続人全員でその内容とは異なる遺産の分け方を決めることになりました。
共同相続人同士で有効な遺言の内容と異なる遺産分割をすることができるのでしょうか?
- A.
- 共同相続人は、遺言の内容に拘束されず、共同相続人全員の同意があれば、遺言の内容と異なる遺産分割をすることができます。
もっとも、特定の相続人に対し「相続させる」旨の遺言がなされている場合には、当該対象遺産については、遺産分割はできません。
1 遺言内容と異なる遺産分割の可否
原則として、相続開始後5年以内の遺産分割を禁ずる遺言がなされた場合(民法908条)を除き、共同相続人は、遺言書が存在する場合でも、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができます(民法907条1項)。なお、この場合、贈与税は原則として課されません。
2 「相続させる」旨の遺言がある場合
では、「相続させる」旨の遺言がある場合、共同相続人間で遺言の内容と異なる遺産分割をすることができるのでしょうか。
判例(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁)は、「相続させる」旨の遺言により、「当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」ので、「当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はない」と判示しています。
つまり、「相続させる」旨の遺言により対象とされた遺産は、遺産分割の対象となる遺産ではなくなるので、遺産分割はできないということです。
3 遺言通りに相続するしか方法はないの?
では、「相続させる」旨の遺言がある場合でも、共同相続人間で合意した内容の分け方を実現する方法はないのでしょうか。
答えは簡単です。
「相続させる」旨の遺言がある場合でも、その後に、遺言によって取得した遺産を、相続人間で贈与したり、交換したりすればよいのです。この場合、対象財産が不動産である場合には遺言に従った登記手続を経た後で、相続人間の協議内容に従った登記手続をしなければなりません。
もっとも、この場合、贈与税が課される可能性もありますので、協議の際に事前に弁護士、税理士等に相談した方がよいでしょう。
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