1.はじめに
当職が前回作成したブログ記事(遺産分割前の預貯金の取り扱いに関する判例変更の可能性)で、遺産分割における預金債権の取り扱いについて判例変更がなされる可能性が出ていることをお伝えしました。
今回は、上記の話題に関連して、いわゆる可分債権と可分債務の取り扱いについて、法改正の内容と併せて簡単にご紹介します。
2.可分債務について
可分債務とは、内容を分割して給付することができる債務を指しますが、相続の場面では借金をイメージしていただくのがわかりやすいかと思います。
相続開始前に被相続人に対して発生している金銭債務は、遺産分割の対象にはなりません。遺産分割は原則的にプラスの財産を分割する話し合いの場だと考えられているからです。
この点については、最高裁判例(最二小判昭和34年6月19日・民集13巻6号757頁)が出ており、「債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する」という扱いが定着しております。
例えば、被相続人に借金があった場合には、お亡くなりになられた時点で、相続人のみなさんはいわば自動的に、全体の額から法定相続分に応じた金額の範囲で、債務を引き継ぐ扱いを受けることになるのです。
無論、相続財産より借金の方が多いケースなどでは、相続放棄の申述をして何も引き継がないという対処をとることができますが、詳しいことについて本稿では割愛します。
3.可分債権について
「可分債権」とは分割給付を目的とする債権と言われますが、具体例としては、売買代金の請求権や預金の払戻請求権といった金銭債権をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。
当職が前回作成したブログ記事でも簡単には触れましたが、現時点では、被相続人が亡くなった時点で法律上当然に法定相続分に応じて各相続人に引き継がれる考え方となっております。
もっとも、この考え方について、平成27年から、法務省における法制審議会の民法(相続関係)部会で議論されており、改正する方向での議論が進められております。
現在、法制審議会の改正案として、甲案と乙案と二つの案が挙げられておりますが、いずれも可分債権を遺産分割の対象に含める内容となっております。ただ、甲案は遺産分割前にも原則として一定の条件、範囲の下で可分債権を行使することが認められていますが、乙案は遺産分割前時点では全ての相続人の同意がなければ可分債権の行使はできない、という点で扱いを異にしております。
すなわち、預金債権(=預金の払戻請求権)でいえば、甲案は遺産分割が決まる前にでも金融機関に預金の払い戻しをしてもらえる可能性がありますが、乙案は遺産分割前では相続人全員の同意が必要となり、あとは遺産分割が決まらないことには預金の払い戻しは得られない扱いになる、という点で大きな違いが出ています。
この甲案と乙案をめぐる議論の状況については、法制審議会の議事録が未発表のため詳細を知り得ませんが、大変気になるところです。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。