皆様、こんにちは。

1.はじめに

前回の当職のブログ記事(「生計の資本とは……?」)では、特別受益のテーマに絡めて、養老保険契約等の受取人が共同相続人の一人であった場合の取り扱いを判断した最高裁判所平成16年10月29日第2小法廷判決(民集58巻7号1979頁)をご紹介しました。

この最高裁判決では養老保険契約等の保険金は特別受益にあたらないとしながらも、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することが出来ないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には」民法903条を類推適用して、特別受益に準じた取扱いをしてもよいという余地を示しました。 それでは、この「特段の事情」をどのように捉えればよいのでしょうか?

2.民法903条の理解の仕方

判決文を読んでいると、そもそも「不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することが出来ない」ことが明確ではないにしても、一つの目安とされていることから、民法903条の趣旨を理解することが出発点のように思えます。

そこで、前回に続きもう一度民法903条1項を見てみましょう。
共同相続人の中に、㋐被相続人から遺贈を受けた、婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた人がいる場合、㋑相続開始時にある被相続人の財産の中に上述の遺贈や贈与を受けた分の価額を含めて、㋒民法900条から902条までの規定に沿って算定された相続分のうち、この遺贈や贈与を受けた人の相続分はこの遺贈や贈与の価額を引いた残りとする、という扱いにすることが定められています。

雑ですがまとめてしまうと、先にもらっていた人がいる場合に、そのもらった分を相続財産に含めて相続分を計算し、その人の相続分は先にもらった分を引くことで調整を図りましょう、と言っています。この規定の狙いは、最高裁の判決文にもありましたように、相続人同士の公平を図ろうということです。

3.何をもって「公平」といえるのか?

遺贈や贈与の部分を相続財産に含めて計算することを「持ち戻し」と呼んでおりますが、悲相続人は、この「持ち戻し」を免除する意思表示をすることが認められています(民法903条3項)。したがって、先に遺贈や贈与を受けた相続人がいて、他の相続人が不公平に感じても、被相続人が自分が亡くなった後に遺産分割協議をする際に、先の遺贈や贈与は計算に入れなくていいと言ってしまえばそれに従うしかなくなります。このルールが「公平」と何の関係があるのだろうか?と思われそうですが、実際上は、この「持ち戻し」の意思がはっきり示されないまま被相続人が亡くなるケースで争いが起こります。つまり、被相続人が生前に決めた遺贈や贈与に関係する事情なども見て、「公平」か否かが判断される面がでてくるのです。

もっとも、広く背景事情を見るというわけではなく、上記の最高裁判例は、判断要素として、保険金の額、保険金の遺産の総額に対する比率、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの事情を例示しています。

実際に上記最高裁判例以降の裁判例をみると、被相続人との関係が薄い相続人が相続財産と比肩するだけの金額の死亡保険金を受領するケースで、「特段の事情」があると判断して、保険金の「持ち戻し」を肯定しているものがあります(東京高裁平成17年10月27日判決、名古屋高裁平成18年3月27日判決等)。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。