皆様、こんにちは。

1.はじめに

相続のご相談で特別受益にあたるか否かについて尋ねられることがあります。
断片的なご事情だけでは判断が難しいところではあるのですが、実際、どのような点で判断に戸惑うのか、今回、少し考えてみました。

2.特別受益とは……?

特別受益は民法903条1項に定められています。これは相続分の計算に関する定めです。

すなわち、共同相続人の中に、被相続人から、①遺贈または②婚姻もしくは養子縁組のためもしくは③生計資本として贈与を受けた者には、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして、法定相続分などの規定によって算出された相続分の中から先の遺贈または贈与の価額を引いた残額をその者の相続分にしてしまう、とのことです。少し雑な言い方ですが、遺贈または先にとある名目でもらった贈与については、相続財産を先にもらった扱いにしてしまうという規定です。

特別受益にあたるケースの分類は、上記の番号のとおり、おおよそ3パターンで整理されることが多いです。
①遺贈は、事実に争いがなければ該当することは間違いありません。
②婚姻もしくは養子縁組のためについては、他所の家に嫁いだり、入ったりする前に渡された財産を特別受益と扱う、という意味合いのようですが、古い風習なので、昨今ではあまり聞かないでしょう。
そうなると残るは③生計の資本ですが、確かに一見するとよくわかりません。次項でケースをご紹介しながら見ていきましょう。

3.「生計」の「資本」とは

いきなりタイトルと反する理解の仕方ですが、特別受益にあたらないと評価される程度の贈与は、この生計の資本としての贈与にもあたりません。
すなわち、相続財産全体から見て少額の贈与は該当しないことになるでしょう。例えば、何千万円もの相続財産があるのに、生前にあった数万円の贈与をいちいち特別受益と評価して、相続分の算定に反映させることはまずない、ということです。

他方で、特別受益に該当しうるケースを考えてみると、例えば、不動産購入野ための資金として、被相続人が生前に何百万円、何千万円ものお金を渡していた場合、この贈与は特別受益に該当する可能性がありそうです。

この他に、特別受益に該当しそうなものはあるのでしょうか?
本稿では、生命保険金についてご紹介します。

生命保険金は、受取人が特定の個人に指定されている場合、相続財産にはあたらないと扱われていることはご存知の方もいらっしゃるかと思います。

最高裁判所平成16年10月29日第2小法廷判決(民集58巻7号1979頁)でも、「養老保険契約」について相続人が保険金の受取人とされていても、死亡保険金請求権又はこの権利を行使して取得した死亡保険金は特別受益にはあたらないとしています。

もっとも、同判決では「上記死亡保険金の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険金契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することが出来ないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象に鳴ると解するのが相当である」と判断し、死亡保険金請求が特別受益にと同様の取り扱いがなされる余地を示しました。

この事件は、父母が相次いで亡くなり、母親を被保険者として、共同相続人の1人が受取人となっていた約574万円の死亡保険金が問題となっていた事案でした。手続外で遺産分割協議が整っていた相続財産も含めると総額は約6000万円に上るとのことでした。

上記の判決の中で示された「特段の事情」とは具体的にはどういうものでしょうか。
次回の当職の記事で続きをご紹介します。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。