隣近所との付き合いは、近所よしみでいろいろと助け合える場合もありますが、何かと頭の痛いトラブルの発生源となることもあります。距離が近い分だけ、日常の何ということのない行為(と考えていたこと)に対し、相手から思わぬ反発を買うことが起こりえます。また、逆の場合、つまり相手の行為に対してこちらが苦情を申し立てたい気持ちとなることもあります。
さて、世の中ペットを飼育する人は大勢います。ペットの代表例としては犬と猫があるかと思いますが、今回は犬と近所付き合いを取り上げてみようと思います。なぜ犬かというと、犬については、①噛む、②吠える、③フンをするの点で、近所トラブルの原因となりうる要素が強いのではと思いますので。(猫もフンはするでしょうが、まあそれは置いておきます。)
犬の飼育について、世の中に何もルールがないというわけではありません。動物愛護の一般的な法律として「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護法)があり、動物の殺生やペット販売、危険な種類の動物の飼育などに規制を及ぼしています。そして、同法を受けて各地方公共団体ごとに条例を定め、より詳細なルール作りを行なっています。栃木県では「栃木県動物の愛護及び管理に関する条例」として制定されており、例えば犬に関する限りでは、放し飼いの禁止や散歩中のフンの処理などが規定されています。例えば、放し飼いの禁止については、違反すると県知事による措置命令の対象となり、また罰則も定められています。
また、飼い犬が他人にかみついて怪我をさせた場合には、栃木県では条例に罰則がありますし、刑法上の過失致傷罪の成立も考えられます。栃木県の条例については、怪我をさせかねない危険性の段階から是正措置命令の対象とし、命令違反に罰則を定めています。
犬に関するご近所トラブルの解決の手がかりとして、このような公の定めが一つあります。つまり、そこに引っかかるような飼育については、問題ありと考えられ、近所との関係を考えると改善点があるだろうということです。
また、犬の飼育が近所に悪影響を及ぼしているということになれば、民法上の不法行為責任を負うこととなります。噛みつきで怪我をさせたら治療費や慰謝料、人の家の前をフンで汚せば清掃費用や慰謝料といったところでしょう。
ただ、吠えについては多少複雑です。そもそも犬は多少なりとも吠えるものですし、犬自体に直接人間のルールを守るよう言い聞かせることはできません。ペットの飼育自体は原則禁じられる行為ではないので、そういった多少なりともついて回る問題を一概に非難することもできません。この点については、ご近所トラブルの定番用語である「社会通念上受忍限度」のハードルを設け、受忍の限度を超える場合に違法としています。そして、受忍の限度を測る要因としては、鳴き声の程度や改善の努力、犬を飼育する必要性、ご近所との問題に対するコミュニケーションの内容及び程度などが総合的に考慮されているようです。飼育下の犬の鳴き声に関する裁判例としては、横浜地裁昭和61年2月18日判決(判タ585号93頁)や、京都地裁平成3年1月24日判決(判タ769号197頁)があります。