めっきり寒くなってきましたね。早くも暖房をつけるかどうか迷う季節です。
 さて、本日は、「不当利得返還請求」に関する話をしようと思います。

 不当利得返還請求というのは、法律上の原因なくして利益を得て、他人に損失を与えた場合には、その他人にその利益を返還するよう請求するというものです。そして、法律上の原因がないということを知らなかった場合、その利益の返還は現存する利益のみでよいとされています。

 この「利得」が金銭である場合について、興味深い判例があります。最高裁平成3年11月19日判決です。

 この事案は、Aさんが銀行から誤って預金の払い戻しを受けたところ、その後誤りに気付いた銀行がAさんに返還を求めたものの、Aさんは払い戻しを受けてすぐにその金銭を第三者Bさんに渡してしまったから現存する利益はない、返還しないと主張したというものです。

 この事例は、いろいろな争点を含んでいるのですが、私が興味をひかれたのは、金銭の利得については現存利益の存在が推定されるとしている点です(これは、それ以前の判例でもとられてきた立場なのですが)。つまり、利得した金銭は、Aさんの財産の中に埋没して、何らかの支出がなされたとしても、その分他の財産の減少を免れているのだから、利得は全体としての財産の中に存在するという考え方です。

 ここで思ったのは、この事例では、すぐに銀行が誤りに気付いてAさんに返還を求めたし、AさんとBさんは近い関係の人だったから、まだ「利得」の流れがわかるし、返還しなければならないということも比較的わかりやすいのですが、これが時間がかなりたってから誤りが発覚したらどうだったのだろう、と思います。金銭は流動的で、時間が経てばたつほど、どうしても「なくなった」と立証しにくくなっていきます。なお、利益の消滅は、利得した人が立証すべきと考えられています。

 複雑な金銭決済の時代になっているからこそ、知らないうちに誤って金銭による利益を得ることもあり得ますから、なんだか気になった判例でした。