不動産関係の事件を扱う際に、まず必要になるのが不動産登記であることは皆さんご存じだと思います。
 この不動産登記簿は、以前は文字通り帳簿の形で法務局に保管されており、謄本を申請すると、この帳簿の写しが交付されるという形でしたが、2008年までに一般的な土地・建物については電子化が完了し、データで管理され、オンラインでの閲覧や申請ができるようになりました。

 しかし、様々な理由でこの電子化に対応できず、取り残されて紙のままで保管されている登記簿が存在します。これを、「事故簿」と呼びます。
 「事故簿」という響きは何やら恐ろしい感じがしますが、単に支障があって電子化できない程度の意味であって、そこまで恐ろしい物でもありません。
 昔は、戸籍も登記簿も手書きで書き込んだりしていましたので、どうしても誤記や間違いが存在したのです。
 例えば、共有の不動産であって、数人の持ち分割合を足しても合計が1にならないような不動産も、「事故簿」扱いになるようです。

 先日私が扱っている事件に関連して取り寄せた事故簿には、所有者欄に「共有地」とあるものの、「共有者名簿なし(共有者不明)」という記載が書き加えられていました。
 土地関係の争いにおいては所有者を基準として当事者を決めることがほとんどであるのに、その手掛かりとなるべき登記簿の記載がこのような状態では困ってしまいますね。
 このような場合には、苦肉の策として、所有者不明で国庫に帰属したとみなして国を相手に訴訟をするという方法などが取られてきたようですが、近年の判例ではその方法も「確認の利益を欠く」として否定されてしまいました。
 まずは、法務局に対して時効取得を主張し所有権登記を申請する方法や修正登記の申請等の方法を試してみるべき、という考えのようですね。

弁護士 井上真理