法律というものは、個々人の日常の暮らしに対しても深くかかわりを持っており、誰であろうとその影響から逃れることのできないものであります。そのため、法律についての知識は、基本的に持っていて損にはなりません。ただ、法律は膨大な範囲・数に上るため、それらすべてを把握することなど到底できるものではありません。
世の中で、個々人がトラブルに巻き込まれやすい分野というものはあり、そのようないくつかのパターンについては基本的な法知識を押さえておくことが勧められるのではないでしょうか。

個人の立場であっても、様々な物品について取引・消費の当事者となります。そのため、消費者問題や特定商取引についての知識は、生活に密接にかかわってきます。
今回は、その中で、クーリングオフ制度についてざっと触れてみようと思います。

クーリングオフ制度は、①購入者が商品についての吟味の機会を与えられない取引形態(訪問販売や電話勧誘販売、訪問購入 SF商法などのアポイントメントセールスは、訪問販売と分類されています。)、②仕組みが複雑で理解が難しく、リスクも大きい取引形態(連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引)、③一定期間を経過しないと期待した効果の有無が判断できない取引形態(エステや学習塾など指定6業種の特定継続的役務提供)を対象として、事業者より法定の記載事項のある書面を受領した日から、①と③については8日以内、②については20日以内に書面で契約解除の意思表示を行なった場合に、無条件で解除を認めるものです。クーリングオフの言葉の意味としては、「頭を冷やして考える」とでもいったもののようです。

上記のクーリングオフ対象取引は、基本的なものとして特定商取引法上で規定されていますが、その他の法律上でもクーリングオフが認められているものがあります。(一定条件下での宅地建物取引や保険契約。また、投資顧問契約など。これらについては、それぞれ所定の期間も定められています。)

クーリングオフの対象となる契約では、法定の記載事項がある書面を交付しなければなりません。法定の記載事項とは、商品の価格や代金支払方法、事業者の表示などですが、当然「本契約においてはクーリングオフが可能である」という告知も含まれていなければなりません。当該書面が交付されていない場合はもちろん、記載内容に不備があった場合でも、所定期間経過後のクーリングオフが裁判例上認められているようです。

また、事業者がクーリングオフを妨害した場合、使えないものと誤信・困惑させた場合にも、所定期間後のクーリングオフが認められた事例があるようです。

なお、クーリングオフの対象となる契約において、代金をクレジットカードで支払うこととした場合、業者に対して通知を出すのみならず、カード会社に対しても同様に通知して引き落としを止めておく方が安心でしょう。

クーリングオフについては、行うことができる契約は決まっています。誤解しやすいのは、通信販売についてはクーリングオフの対象とされていません。購入する側にとっては、購入の意思を伝える前に十分吟味する時間があるからです。そのため、「とりあえず購入して、気に入らなかったりサイズが合わなかったりすれば、クーリングオフで返してしまえ。」と勘違いしないように注意が必要です。(もっとも、各事業者が個別に返品規定を設けている場合、それに則り返品するのは自由です。)
また、3000円未満の現金取引や自動車の購入、消耗品を購入して既に費消してしまった場合にも、クーリングオフの対象外となります。