前回までの続きです。
今回は、土地の登記上の境目を明らかにする方法のうち、境界確定訴訟について触れようと思います。
境界確定訴訟を規律する明文法は、現在存在しません。ただ、旧来にはこれを定めた法律があったことや、現在でも絶えない紛争類型であることから、慣習法として認められています。
境界の確定は、法律上にその形成要件が定められていません。そのため、境界の確定は本来、当事者の主張立証が法定の要件を満たすか否かを判断するという訴訟の形式には不向きで、裁判所の裁量により合理的・合目的的な結論を形成するべき筋のものではないかと考えられます。しかし、境界の確定は、私人間の利害関係にも密接に関連してもいます。そのため、訴訟の形式に則り、当事者の関与と手続保障とを考慮するように計らっています。 このような背景からか、境界確定訴訟は形式的に訴訟の体裁をなしながらも、一般的な民事訴訟にはない特徴も有しています。
まず、境界確定訴訟においては、訴訟上の和解が認められません。請求認諾や請求放棄も出来ません。(和解に関しては、境界の確定ではなく所有権の範囲の確定という方に争いの中身を置きなおして、所有権範囲についての和解として成立させるやり方が、しばしば実務で取られるようです。)
次に、一般的な民事訴訟では、基本的に、裁判官が判断の資料とする証拠については当事者双方が提出したものに限られます。裁判官がわざわざ自分で証拠を探してくれることはありません。しかし、境界確定訴訟では、裁判官の職権による証拠収集が可能です。それに、自白も認められていません。
また、一般的な民事訴訟では、裁判官の判断は当事者の請求事項・主張内容に拘束されます。しかし、境界確定訴訟では異なり、裁判官は当事者の主張範囲を離れて境界の位置を定めることが可能です。(つまり、訴訟前の予想よりも自己に不利益な結論が出されることがあり得ます。)この点は、上訴時も同様で、不服を申し立てた側にさらに不利になる結論があり得ます。
最後に、この訴訟において、裁判官は必ず境界の位置を定めなければなりません。一般的な民事訴訟では、証拠不足で請求にかかる事実の特定・真偽の判断ができない場合には、請求棄却とすれば足ります。しかし、境界確定訴訟ではそれができないため、裁判官は結論を出すに合理的な心証が得られるまで、または当該事案における一切の事情を斟酌して妥当な境界の位置につき決断できるまで、訴訟を続けることとなります。この点は、時として長期化の原因ともなるようです。
このように、境界確定訴訟は、一般的な民事訴訟にない特徴から、かなりクセのある手続きと感じてしまいます。しかし、判決が確定すれば、その内容のとおり境界の位置が確定するという終局的解決効は、メリットということができるでしょう。
最後に、これまでと同様、境界確定訴訟は所有権の範囲を定めるものではないことを再度述べておきます。境界確定訴訟において、判決の理由中に所有権の帰属・範囲についての判断が含まれていても、それに既判力は生じません。 判例では、所有権に基づく土地建物明渡請求訴訟の継続中に中間確認の訴えとして境界確定訴訟を提起することにつき、「境界の確定は、係争土地部分の所有権の確定と異なり、土地所有権に基づく土地明渡訴訟の先決関係に立つ法律関係にあたるものと解することはできない」として、不適法却下したものがあります(最判昭和57年12月2日判時1065号139頁)。