- A.
- 引越しに伴い飼い犬の所在地が変わった場合の届出と、毎年1回の狂犬病の予防接種はどちらも狂犬病予防法という法律に定められている飼い主の義務です。
狂犬病予防法は、どちらについても罰則を設けており、違反すれば罰則の対象になりますので、相談者様も罪に問われる可能性がないとは言えません。
まず、質問に対する回答にも書きましたが、飼い犬の登録義務は、狂犬病予防法という法律に定められています。
「飼い犬の登録」ということが、狂犬病予防のための法律に規定されていることを意外に思う方もいると思いますが、そもそも飼い犬に登録義務を定めている理由は、まさに「狂犬病の予防」を適切に行うために行政として管理するためだからです。
さて、狂犬病予防法は、同法4条1項本文で登録義務を定めています。
そして、所在地が変わった場合の届け出義務については、
「第一項及び第二項の規定により登録を受けた犬の所有者は、犬が死亡したとき又は犬の所在地その他厚生労働省令で定める事項を変更したときは、三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、その犬の所在地(犬の所在地を変更したときにあつては、その犬の新所在地)を管轄する市町村長に届け出なければならない。」(同法4条4項)
と定められています。
そして、同条に違反した場合、20万円以下の罰金を定めています(同法27条)。
また、予防接種の義務については、同法5条1項で
「犬の所有者(所有者以外の者が管理する場合には、その者。以下同じ。)は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない。」
と定められている通り、毎年1回予防接種を行うことを義務付けられており、こちらも違反した場合は同法27条で20万円以下の罰金刑が適用されます。
なお、予防接種を受けた場合には「注射済票」というものが交付されますが、この「注射済票」を犬につけておくことも買主の義務であり、違反すればやはり20万円以下の罰金の対象となります。
ここで注意しなければならないのは、この法律で定められているのが「罰金」という刑事罰であるということです。
「狂犬病」は発症した場合ほぼ100%死亡に至る危険な病気であり、その危険にかんがみて義務違反者に対しては刑事罰を定めているのです。
この点、同じく引越しを行った場合には住民票の移動が必要となりますが、住民票の移動を怠った場合に適用されるのは「過料」という行政罰であり、刑事罰ではありません。
つまり、法律上は、「人の移動」の届け出を忘れるよりも、「犬の移動」の届け出を忘れてしまった方がペナルティーは重いのです。
さて、ここまで読んでご覧になっている方で「そうはいっても、狂犬病予防法で罰金を払った人の話を聞いたことは無い」と思った方がいるとしたら、認識を改める必要があります。
狂犬病予防法違反によって罰金が科された事例は存在します。
例えば、飼い犬をけしかけて通行人を襲わせたという事件(横浜地方裁判所昭和57年8月6日判決)では、傷害罪の他に狂犬病予防法違反でも罰則が科されています。
この事件は傷害事件という別の刑事事件と共に刑罰が科されたケースですが、斜里簡易裁判所昭和46年11月18日判決の事件では、前記事件とはちがい純粋に「登録義務に違反したこと」を理由として罰金が科されています。
狂犬病は恐ろしい病気です、それを予防するための「登録」「届出」「予防接種」はきちんとしなければなりません。