2年間の芸能専属契約をとある事務所と契約した歌手が、事務所から契約上定められた報酬を支払ってもらえなかったということで、債務不履行に基づき、2年経過前に契約の解除を申し入れました。ところが専属契約には、「事務所が歌手の宣伝プロモートのために費やした多大な時間・労力・資金・努力にかんがみ、その損失を補償しない限り、その後、2年間内に他の芸能人の紹介斡旋をする事業体に所属することや個人で芸能活動を行うことはできない」という条項がありましたので、事務所側としては、この条項を援用しました。そこで歌手は、この条項による制約を受けないことを確認する訴訟を提起しました。
この事例について、裁判所は
「芸能人の芸能活動について当該契約解消後2年間もの長期にわたって禁止することは、実質的に芸能活動の途を閉ざすに等しく、憲法22条の趣旨に照らし、契約としての拘束力を有しないというべきである。」
と述べ、契約終了後2年間の芸能活動を拘束する定めは拘束力を持たないと判断しました。ただ、それに対し、契約終了に伴い、歌手の活動のために資金を費やし、その資金を上回る利益を事務所にもたらさないうちに契約終了となった場合に、事務所が支出した費用を補てんする趣旨での合意は拘束力があると判断しました。
3 芸能事務所との契約終了の見極め
この判決をわかりやすくいいかえると、せっかく事務所が期待をかけて育ててくれたのであれば、それ相応の売り上げをあげてから移籍するべき、そうでなければ損失を補てんする負担を負う覚悟をしておくべき、ということになります。
芸能人が活動をやめたり移籍したりするにあたっても、自分のためにどのくらいの費用が掛かって売り上げがどのくらい上がっているのか、という普通の費用対効果のバランス感覚が必要になるのでしょうね。