預託荷物の運送という結果が求められる業務が中心となる物流業界において、運転手の給与を労働の成果に応じて支給したいと考える企業も多いと思われます。では、従業員の給与を、同人の労働の成果と完全に連動させて算定すること(以下、「完全歩合制」といいます。)は、我が国において適法に行えるのでしょうか。

 この点、参考になる事例として、完全歩合制を採用して給与の支払いをしてきたタクシー会社A社について、労働基準法所定の時間外及び深夜労働分の割増賃金の支払義務が履行されていないと判断された判例があります(最高裁平成6年6月13日判決)。

 A社は、従業員であるタクシー乗務員につき、毎月、A社が規定した労働時間(隔日午前8時から翌午前2時までの16時間勤務)内の乗務によって獲得した各人の売上金額に、同人の社員類型毎に定めた歩合(例えば正社員なら45%)を乗じた金額を給与として支払っていたところ、乗務員Bらから、時間外及び深夜労働分の割増賃金の支払いを請求されました。

 これに対し、A社は、A社が支払う給与には、時間外及び深夜の割増賃金も含まれている等と反論しましたが、裁判所は、同給与は、時間外あるいは深夜労働にあたる労働を行った場合においても増額されることはなく、また、通常の労働による賃金部分と割増賃金部分とを区別することもできないため、当該給与の支払いをもって時間外及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできないとし、A社には同賃金の支払義務があるとしました。

 我が国では、労働時間を延長したり深夜勤務を行わせた場合には割増賃金を支払う義務が法定されていますが、完全歩合制とすると、上記A社の例のように、成果以外の要素(時間帯等)に応じた給与算定が困難となるため、当該義務に違反する可能性が高いと考えられます(労働基準法37条1項、4項。なお、違反については懲役や罰金等の罰則の対象となります(119条1号)。)。

 一方、完全歩合制とすると、従業員の稼働時間がゼロないし極めて短時間となった場合、従業員に対して支払われる給与もゼロないし極めて少額になると考えられますが、これについては我が国の最低賃金制度に反する可能性が高くなると考えられます(最低賃金法4条1項、40条)。

 このように、我が国の労働法制下において完全歩合制を採用することは、法令上の規制から様々な問題があり、特に最低賃金制度との関係からすれば事実上困難であると考えられます。従業員の労働の成果を反映させたいと考えても、少なくとも最低賃金制度の要求を充足しうる固定給部分を設けつつ、法が要求する割増賃金の支払いが可能となり、かつ、通常勤務の給与部分と割増部分との区別が可能な給与算定方法となるよう、ご留意ください。