セクハラ発言をした従業員に対する懲戒処分等が有効とされた事例
~最高裁判所平成27年2月26日判決~

Ⅰ 事案の概要

(1)本判決は、Y社の男性従業員2名(以下、「X1」、「X2」といい、X1とX2を併せて「Xら」ともいいます。)が、複数の女性従業員に対してセクハラ発言をしたため、Y社が、X1について30日間、X2について10日間の出勤停止の懲戒処分(以下、「本件懲戒処分」といいます。)をし、さらに、本件懲戒処分を理由にXらの資格等級を1等級降格(以下、「本件降格」といいます。)したため、本件懲戒処分及び本件降格の有効性が問題となった事案です。

(2)Y社は、セクハラの防止を重要課題として位置付けており、「セクシャルハラスメントは許しません!!」と題する書面(以下、「セクハラ禁止文書」といいます。)を従業員に配布し、職場にも掲示していました。また、セクハラの防止等に関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし、セクハラ防止のための種々の取組を行っていました。

(3)平成22年11月頃から、X1は、女性従業員に対して、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等について意図的に具体的な話をするなど、極めて露骨で卑猥な発言等を繰り返していました。また、X2は、女性従業員の年齢や女性従業員が未婚であることなどを意図的に取り上げて、著しく侮辱的・下品な言葉で、侮辱・困惑させる発言を繰り返し、派遣社員の給与が少なく夜の副業が必要であるなどと揶揄する発言をしていました。

(4)被害従業員の一人は、Xらによる報復や派遣元の会社の立場の悪化を懸念して、抗議や申告をすることを控えていましたが、平成23年12月、Y社を辞めるにあたり、Y社に被害の申告をしました。
 Y社は、Xらの行為が、就業規則の「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に該当するとして、平成24年2月17日付で、本件懲戒処分をしました。

(5)加えて、Y社は、平成24年2月23日、Xらが出勤停止処分を受けたことを理由に、Xらを1等級降格しました。なお、Y社の資格等級制度規程によれば、社員が懲戒処分を受けたときは、降格をすることができる旨が定められていました。

(6)Xらは、本件懲戒処分および本件降格により、給与及び賞与の減額等の不利益を受けています。

(7)第一審は、本件懲戒処分及び本件降格を有効としましたが、原審は、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分は重すぎるとして、これを無効と判断しました。

Ⅱ 最高裁判所平成27年2月26日判決

(1)本件懲戒処分の有効性について(懲戒権の濫用か)

ア 本判決は、原審が、被害女性が明確な拒否の姿勢を示していなかったため、Xらがそのような言動も許されると誤信していたことを、Xらに有利な事情として考慮していることについて、「職場におけるセクハラ行為については…職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりする」ことや、Xらのセクハラ発言の内容に照らせば、これをXらに有利な事情として考慮することは相当でないと判断しました。

イ また、原審が、Xらが本件懲戒処分を受ける前に会社から事前に警告や注意を受けていなかったことなどをXらに有利な事情として考慮していることについて、管理職であるXらは、セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関するY社の方針や取組を当然に認識すべきであったといえること、Y社において被害を認識する機会がなかったことなどから、これを、Xらに有利な事情として考慮することは相当ではないと判断しました。

ウ 以上により、Xらが過去に懲戒処分を受けたことがなく、本件懲戒処分が給与上の不利益を伴うものであることなどを考慮しても、本件懲戒処分は、懲戒権の濫用にあたらず、有効であると判断しました。

(2)本件降格の有効性について(人事権の濫用か)

 本判決は、「本件資格等級制度規程は、…社員が懲戒処分を受けたことを独立の降格事由として定めている」ところ、「現に非違行為の事実が存在し懲戒処分が有効である限り、その定めは合理性を有する」とし、Xらが、有効な出勤停止処分を受けていることからすれば、本件降格も、人事権の濫用にあたらず、有効であると判断しました。

Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項

(1)セクハラ対策について

 セクハラ発言を行うような従業員が職場にいると、他の従業員の士気や企業イメージを低下させ、会社の利益を著しく損ないますので、十分な対策が必要です。

 懲戒処分が有効であるためには、当該処分が相当である必要がありますが、第一に、本判決が、被害女性側からの明白な拒否がなかったことを加害男性らの有利な事情として考慮するべきではないとしている点は重要です。被害女性が申告などをためらうことは少なくないからです。

 また、第二に、本判決は、懲戒に至るまでに加害男性への警告や注意等がなかったことも有利な事情として考慮するべきではないとしている点も重要です。とりわけ、本判決がその判断において、Y社がセクハラ防止を重要課題として位置付けており、セクハラ禁止文書を作成してこれを周知するなど、種々の取組を事前に行っていたことを考慮していることは注目されるべきです。セクハラ防止という“事前のセクハラ対策”が、懲戒処分という現にセクハラが起こってしまった後の“事後的なセクハラ対策”の場面においても重要になるということですから、企業にとってセクハラ防止の重要性は増しているといえるでしょう。

 なお、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律は、職場におけるセクハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じることを事業主に義務付けていますが(11条)、かかる措置をとることは本判例のいうセクハラ防止の取り組みにもつながると考えられます。

(2)懲戒処分を受けたことを資格等級の降格事由とすることについて

 本件では、セクハラ発言について、懲戒処分として出勤停止処分がされており、これに加えて、資格等級の降格がされると、Xらに二重の不利益を与えることになり、問題になるのではないかとも考えられます。
 しかし、本判決は、上記Ⅱ(2)のとおり、資格等級制度において、懲戒処分を受けたことを独立の降格事由とする定めも有効であると判断しており、実務においても留意されるべきポイントであると考えられます。