今回は、従業員が職務外で犯罪を犯し有罪となった場合に、会社は解雇できるのかを考えていきます。たとえばトラックドライバーが、休日に、①喧嘩をして暴行罪で有罪となった場合、②飲酒運転で有罪となった場合のそれぞれにおいて会社は懲戒解雇をすることができるでしょうか。

 多くの会社では就業規則において、懲戒解雇事由として、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」等の規定が定められています。従業員が犯罪を犯して有罪となった場合は、この懲戒解雇事由にあたり得ると考えられます。

 もっとも、裁判例の多くは、職務外でなされた職務遂行に直接関係のない私生活上の行為によって有罪となったからといって、直ちに懲戒解雇事由となることを認めているわけではありません。この点、最高裁の判例の中には、当該行為の性質、状況のほか、会社の事業の性質、態様、規模、会社の経済界に占める地位、経営方針、その従業員の会社における地位、職場など諸般の事情から総合的に判断して従業員の解雇の有効性を判断したものがあり、参考になります(最高裁昭和49年3月15日判決)。

 当該判例の立場からすると、①喧嘩をして暴行罪で有罪となった場合、暴行罪は比較的軽い刑事処分になる場合が多いため、当該従業員の勤務態度が真面目であり、初犯であるなどの事情があれば、当該行為が業務に及ぼす影響や会社の信用を棄損する度合いは高くはないと考えられ、その結果、懲戒解雇が無効と判断される可能性もあります。そのため、事案に応じた慎重な判断が求められることになります。

 他方、②飲酒運転で有罪となった場合は、当該トラックドライバーが自動車を扱う運送会社において運転業務に従事する者であることからすれば、当該行為が業務に及ぼす影響や会社の信用を棄損する度合いは大きいと考えられます。この点、タクシー会社の運転手が同僚に酒を勧めて飲ませたうえ、その同僚が運転する自家用車に同乗したという事案において、タクシー会社においては「こと自動車運転に関する限り、他の企業と比較してより厳しい規制がなされうる合理的な理由があるものというべき」として、当該運転手の懲戒解雇を有効と判断した裁判例があります(仙台高裁昭和50年10月16日判決)。その他、バスの運転手が休日に飲酒運転をして罰金刑に処せられた事案や、貨物自動車運送業のドライバーが業務終了後の帰宅途中に飲酒して自家用車を運転し、酒気帯び運転で検挙された事案において、解雇ないし懲戒解雇を有効と判断した裁判例があります。

 以上のような考え方に照らせば、トラックドライバーが②飲酒運転で有罪となった場合は、①喧嘩をして暴行罪で有罪となった場合よりも、懲戒解雇が有効と判断される可能性は高くなるといえるでしょう。

 併せて、判例の立場からすれば、裁判で有罪が確定していない逮捕の段階で、直ちに懲戒解雇を行うことは認められない場合もあるということに留意する必要があります。