平成26年5月30日、物流業界において押さえておくべき通達が出されました(同日付基発第4号(以下、「本件通知」といいます))。本件通知では、「業務上、自動車運転に従事する者(業務上、移動手段として自動車を利用する者を含む)」を雇用する事業者は、当該従業員の雇入時又は定期の一般健康診断において、「意識を失った」「身体の全部又は一部が一時的に思い通りに動かせなくなった」「活動している最中に眠り込んでしまった」等の症状の有無を確認することが望ましいとされました。
これにより、今後、わが国において運転手を雇い入れる雇用主としては、これまで法令上は明示されていなかった上記症状の有無を確認するべく、雇入時の健康診断を担当する医師に確認の指示を出す等の措置をとることが望ましいでしょう。
では、雇入時の健康診断で内定者に上記症状が確認された場合、内定を取り消すことができるでしょうか。まず、行政の運用を見ると、平成5年5月10日付「雇入時の健康診断の趣旨の徹底について」という都道府県労働基準局宛ての事務連絡によれば、法令上義務付けられている雇入時の健康診断は、あくまで入社後の適正配置や健康管理を趣旨としているため、その結果を就労希望者の採否決定のために用いることは好ましくないとされており、平成20年1月30日付「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」においても、健康診断時の医師等の意見を理由に容易に解雇することは避けるべきとされています。そして、判例上、内定取消しは、内定後に判明した事実が「採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが…社会通念上相当として是認できるものに限」り、有効とされています(最高裁昭和54年7月20日判決)。これらからすると、雇入時の健康診断において上記症状が確認されたことのみから内定を取り消すことは難しいと考えられます。
このため、雇用主としては、本件通知に基づき、雇入時健康診断において内定者に上記症状が確認されたとしても、まずは、自社の就業規則等に基づき、運転をしない業種への配置転換等を命じることが必要になると考えられます。もっとも、「運転手」として内定を出したにもかかわらず、上記症状によって自動車を運転することが困難な状況があるとすれば、内定を取り消すことは社会通念上相当であるとも考えられます。
以上から、運転手のみを採用したい企業としては、運転手に職種を限定する雇用契約とすることが、内定者に上記症状が確認された際の一つの対策になると考えられます。