前回は、就業規則や労働契約の種別など、M&Aの対象となる会社におけるルールや契約形式についてご紹介しましたが、今回は労働実態についてご紹介します。潜在している債務を可能な限り洗い出すことは非常に重要と考えられますが、人事労務関係は、潜在している債務が非常に生じやすい分野といえます。
典型的には、時間外割増賃金、いわゆる未払い残業代の有無です。所定労働時間どおりに働いていればよいのですが、労働実態を見つめてみれば、やはり仕事の繁閑や突然の業務によって、残業が生じてしまっていることがほとんどといわざるを得ません。
タイムカードなどによる労働時間の記録上は、残業した記録は残っていない場合でも、従業員から労働実態をヒアリングしていくと、所定労働時間においてタイムカードを切った後に、改めて仕事を再開しているといった会社があるなど、労働時間管理が適正に行われていない場合もあり、このような場合は従業員に対する時間外割増賃金の支払債務が発生していることとなります。
また、事務所の外で業務を行っている従業員については、事業場外労働を行っているものとして、所定労働時間働いたものとみなし、残業代が支給されていない場合もあります。確かに、事業場外における労働時間は、算定することが困難な場合には、所定労働時間働いたものとみなす制度ですが、例外もあります。たとえば、所定労働時間内では到底終了しない業務を行っていた場合には、「通常必要とされる時間」働いたものとみなされる結果、時間外割増賃金が発生することになります。
そもそも、事業場外における労働時間の算定が困難ではない場合には、この制度を利用することができません。事業場外で働いているものの、訪問先を会社からの指示に基づき定められ、訪問先での業務を終えるごとに携帯電話からの報告を求めるなどの方法で、いつ業務を終えたのか把握することができるような場合には、事業場外労働による労働時間のみなし制度を適用することはできず、時間外割増賃金が発生するおそれがあります。
このほか、何時間分の残業代であるかなどの内訳が明らかではない「みなし残業手当」の支給が行われている場合なども時間外割増賃金の発生原因となりえます。
このような時間外割増賃金の発生原因は、労働実態のいたるところに潜んでいるといわざるを得ません。しかしながら、すべての労働時間管理を完璧に行うことができている企業は必ずしも多くないため、人事労務における潜在債務の発見においては、どの程度のリスクが潜在していると見込まれるのかという点を見極めることが重要となります。