不動産賃貸事業に関するM&Aを行う場合、当然のことながら、買収対象の会社は、多くの不動産を保有し、または、何らかの権限を有して不動産を活用しています。そこで、保有不動産又は活用している不動産などがどのような権利関係に基づいて活用されているのか調査する必要があります。

 まず、調査すべきはどこの土地及び建物などの不動産を事業に利用しているかという点ですから、賃借又は所有などの権限の種別に加えて、対象会社が利用している不動産のリストが必要です。また、すべての不動産について登記簿謄本を確認する必要があるため、地番などの所在を示す資料も必要となります。全ての不動産登記簿謄本を入手すれば、対象会社が所有権を有しているのか、それとも賃貸借などの契約関係に基づく利用を行っているのかを区別することができます。

 所有権を有している場合は、利用権限については特段の問題が生じる可能性は低いですが、抵当権の設定が行われている場合には、当該抵当権の被担保債権について、履行遅滞など担保権実行の端緒が発生していないか調査しておく必要があります。また、かつて工場用地として利用されていたことが登記簿謄本などから発覚した場合には、たとえ汚染した者が所有者自身でなかったとしても、土壌汚染対策法に基づき汚染された土壌の除去等を命じられるおそれがあり、当該費用の負担は第一次的には除去を命じられた当時の所有者が負担させられる可能性があり、大きなリスク事項となり得ます。

 一方、不動産の利用が所有権ではない場合、いかなる契約に基づいて不動産を利用しているのかという点について、契約書を確認して調査する必要があります。

 この際に、建築当初から建物全体の一括借受を行っている場合には、注意が必要です。不動産賃貸事業者が、建物建築を地主へ依頼し、地主が建築後の建物を完成次第、一括借受を行っているケースがあります。このような場合、不動産賃貸事業者から多額の金員が地主に「建設協力金」や「保証金」などの名目で交付されている場合があり、建設当時の約束などから返還されない、または、一部しか返還されない可能性もあります。また、一括借受は、一般的には長期間の契約となっており、地主のローン返済との関係もあり、不動産賃貸事業者からの解約が困難となるように高額な違約金が設定されている場合などもあります。このように、不採算な一括借受が発見された場合には、当該一括借受契約が解消可能か否か検討する必要もあります。

 不動産の権限や契約関係の調査については、様々な形態があり、契約内容を子細に調査しなければ、大きな財産を失う可能性もあり、M&A実行時には慎重な調査が求められます。