M&Aを実行する場合、株式譲渡によることが多いと思われますが、この場合、買収対象会社において誰が株式を保有しているかの調査が重要となります。なぜなら、M&Aにおける具体的な取引対象物は株式そのものだからです。しかしながら、当職の経験上、非上場会社の場合、法的な調査を始めると、そもそも株式を誰が保有しているのか不明な状況に陥るケースが散見されます。
昔の商法下では、7人の発起人が会社の設立に必要とされていたため、第三者から名義だけ借りて発起人として取り扱うような場合があり、このような場合、実質的な株主は誰なのかを探る必要が生じてきます。また、株券発行会社において過去に株式譲渡があった場合に、株券の交付がなされていなかったような場合があり、このようなケースでは、そもそも株式譲渡そのものが無効と判断されることが多くなります。
このように過去の株主の状況を法的に調査した結果、過去の株式譲渡について瑕疵が生じていた場合、法的には株主ではない者が株主総会に出席し決議していたということになりかねず、過去の株主総会そのものの有効性にまで疑義が生じることになりかねません。
更に、このように買収対象先の株主に関し問題が生じていると、会社を買収した後に、真の株主であることを主張する第三者が現れ、M&Aそれ自体の有効性が争われたり、株式の買い取りを請求されたりすることも考えられます。
そのため、M&A法務デューデリジェンスにおいては、株式の法的調査がとても重要となります。その結果、前述したように株式譲渡に株券の交付がなされていないことが発見された場合、どのように対応すべきかが問題となりますが、このような問題ついて、実務では買収対象会社を株券廃止会社にするという対応策をとるケースがあります。
この対応策により、株式譲渡の第三者対抗要件を株主名簿の名義書換とし(会社法130条1項)、株式譲受人は、株主名簿の名義書換を行わない限り第三者対抗要件を備えていないという解釈に持ち込むということが考えられます。
その結果、株式を別途取得したという第三者が現れても、株主名簿の名義書換を行っていないため、株主として取り扱わないという解釈で対抗し争うことも可能となります。
このように、M&Aにおいては、買収対象会社における株主が誰なのか、株式の譲渡が過去にあった場合には、その譲渡は有効なのか、株式譲渡に瑕疵があった場合、治癒する法的手段はないのか等、株式について多くの検討課題がありますので、注意が必要です。