今回は、インフルエンザの流行時期が来る前に、高齢者施設の感染症予防を取り上げたいと思います。
厚生労働省は、一般的な感染症予防について「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」を、パンデミックの恐れもあると考えられている新型インフルエンザについては、「高齢者介護施設における新型インフルエンザ対策等の手引き」をそれぞれ公表していますので、これらの考え方の中心となる点を簡潔にお伝えします。
これらのマニュアル及び手引きは、標準予防措置策(スタンダード・プリコーション)というアメリカの国立疾病予防センターが提唱した感染症対策のガイドラインを参考に作成されています。
具体的には、「すべての患者(高齢者施設においては入居者ということになるでしょう。)の血液、体液、分泌液、嘔吐物、排泄物、創傷皮膚、粘膜血液は感染する危険性があるものとして取り扱わなければならない。」という考え方が基本とされています。高齢者施設では、特に嘔吐物及び排泄物の処理の際に注意が必要と考えられています。
感染症対策の柱として、感染源の排除、感染経路の遮断、宿主の抵抗力の向上が挙げられています。感染源としては、上記のスタンダード・プリコーションに挙げた考え方のとおりです。
次に、感染経路としては、接触感染、飛沫感染、空気感染、血液媒介感染があるためこれらの経路を遮断することを求められており、感染源を①持ち込まない、②持ち出さないこと、③広げないことが重要です。具体的には、手洗いうがいの励行や清掃、嘔吐物や排泄物等を扱う際には手袋、マスク、エプロンの着用により感染を遮断することの徹底になると思われます。また、普段から施設にいない人物(例えば、面会を求める方や新規入所者)が、施設へ入る際に、感染源を持ち込まないように注意しましょう。新規入所者については、感染症の有無についても確認を怠るべきではないと思われます。
また、発生時の対応として、状況把握、拡大の防止、医療措置、行政への報告、関係機関との連携が求められています。まずは、職員が発生者の状況及び施設にいる他の入居者の状況を把握し、看護職員は拡大防止に努め、速やかに適切な医師又は協力病院との連携を行うことが必要です。
裁判例においても、状況把握や拡大の防止、その後の医療措置は重要視されている傾向にありますので、緊急事態であっても、それぞれの役割をあらかじめ適切に行えるように、流行前に感染対策委員会等の開催や職員への研修を忘れずに行っておくほうが良いと思われます。