債権回収案件の分類
弁護士業を行っていますと、債権回収に関するご相談を日々受けることになりますが、債権回収案件も大きく分けて二つに分けることができると思います。
具体的には、債権成立に支障がない債権(債権回収し易い債権)と、債権成立に支障がある債権(債権回収しにくい債権)とに分けることができると思います。
民法の原則からすると、契約は原則口頭、すなわち口約束で成立することになります。例えば、AさんがBさんに対して、「この商品を明日1000円で売ります。」と言い、それに対して、BさんがAさんに対して、「明日1000円で買います。」と口約束しただけで、売買契約は成立することになり、AさんはBさんに対し1000円の債権を持つことになります。
とはいえ、債権回収の実務では、契約書の存在又は少なくとも請求書の存在が必要となります。これは、最終的には裁判を見据えた場合、その口約束を立証しなければならないという立証の問題が生じるためです。
そこで、債権成立に支障がない債権という視点からは、裁判を見据えた場合でも立証しやすい債権として、契約書が存在することがとても重要となります。その上で、債権者、債務者、支払期日及び支払金額が一義的に明確であって争いがない債権を、この債権成立に支障がない債権に分類できると思います。
一方で、債権成立に支障がある債権は、この逆の性質を持つことになります。契約書がなかったり、請求書すら存在していなかったりするような債権です。
そのため、債権成立に支障がある債権というのは、債権者、債務者、支払期日及び支払金額が一義的に明確ではない債権ということになり、債権成立自体や債権額を相手方が争う等して、支払期日が過ぎてしまっている債権ということになります。
このように、債権回収案件を二つに分類しましたが、このように二つに分けると、その性質に応じて相手方への督促方法も変わってきます。
債権成立に支障がない債権
そもそも、債務者は債権者の中でもうるさく督促してくる相手方から、支払いを済ませてしまう傾向にあると実感しています。そこで、債権成立に支障がない債権については、少しでも支払期日が過ぎた時点で、督促をかけることが効果的だと考えます。とにかく、早め、早めに効果的に督促を行うことが重要となります。
督促方法は、電話等の口頭で済ませるだけではなくメールや書面も用いた方がよいです。更にメールや書面については、担当者レベルを名宛人とするのではなく、しっかりと相手方の法人名だけではなく、代表取締役名も出した上で、督促を行うことが重要となります。
更に、このような督促を行っても一向に支払いがなされないような場合、裁判所の手続を利用することが考えられます。
その代表的かつ簡便な手続は支払督促です。NHKの受信料未払いに対する督促について、この手続が利用されたため、新聞やテレビ等のメディアを通じて有名になった手続です。まさしくNHKの受信料未払いのような場合、債権成立に支障がない債権に分類できると思いますので、NHKもこの簡易な支払督促手続を利用したのだと思います。
この支払督促手続の具体的な内容ですが、支払督促段階では、簡易裁判所の受付に行く必要はありますが、法廷といった傍聴席があり裁判官が登場する場所に行く必要もなく証拠の提出も求められません。簡易裁判所の受付は区役所等の役所の雰囲気と変わらないので、精神的にも気軽に利用できる手続だと思います。
手続は、まず簡易裁判所に行って、書記官に支払督促をしたい旨を伝え、支払督促に関する所定の用紙をもらいます。その上で、請求したい債権額や、その債権が発生した理由等を記載すれば、裁判所が相手方に支払督促を送付してくれます。
相手方が、その支払督促に対して異議を申し立てなければ、裁判をして判決を得た場合と同様の効果を得ることができ、そのまま相手方が支払いをしなければ、相手方の財産へ強制執行することも可能となります。
ただし、相手方が支払督促に対して異議を申し立てると、通常訴訟に移行することになる点には注意が必要です。すなわち、異議が出されると、法廷へ出廷して、債権を証明できるだけのしっかりとした証拠の提出が求められることになります。
とはいえ、異議はとりあえず相手方から出されるが、裁判が開始される前に、結局相手方が全額支払いを行い終了するようなケースや、当日相手方も裁判に出廷するも、一時金の支払いと残額を分割で支払う旨の和解を獲得できるようなケースもあり、たとえ異議が出されたとしても長期化はせず短期に債権を回収できるケースも多くあるといった印象を受けています。
特に、この頃は相手方も現実感がないのか、裁判手続まで利用しないと、支払いを遅滞し続けると言ったケースが増えていると思います。
債権成立に支障がある債権
債権成立に支障がある債権については、通知書等で督促を行ったとしても、支払いがなされないことが多いです。やはり、債権成立自体や債権額に争いがある場合、相手方にもそれなりの言い分がある場合が多く、単に督促をしただけでは支払いがなされない場合が多いです。
そこで、このような債権については、請求を行っても争いになるといった覚悟が必要で、将来の裁判まで見据えて、事実関係をしっかり書き出し、証拠となるようなものがないか否かを調査しておく必要があると思います。最低限、味方につく弁護士を説得できるだけの事実関係や証拠関係の洗い出し及び収集が必要になると思います。
とはいえ、どのような事実関係や証拠関係を収集して良いかすらわからない場合といったケースもあると思います、そこで、そのような場合には、どのような方針で対応すれば良いかを相談しても、ざっくりと、どのような事実関係及び証拠関係を収集すべきかをアドバイスしてくれる弁護士に相談した方がよいと思います。
その上で、どのように債権を回収するのかについて、弁護士と共同して戦略をしっかりと立てることが重要となります。
最後に
このように債権回収の案件といえども、その内容に応じて督促方法は異なってきます。そこで、まずはいずれの債権に分類できるのかを早めに検討し、迅速な督促方針を決定することが効率的に債権回収を行う上で、とても重要になると思います。