ハラスメントとは?

 「ハラスメント」とは、最も広い概念で言うと「いじめ」「嫌がらせ」を意味します。職場や学校、家庭内や病院など、起こる場所と人間を選びません。これが性的な嫌がらせだと、セクシュアルハラスメント、職場で職権などの力関係を利用した嫌がらせだとパワーハラスメント、病院で医師や看護師から患者やその家族へ行われるドクターハラスメント、大学などの学内で教授などの教員がその力関係を利用して学生に行う嫌がらせだとアカデミックハラスメント等と言われるわけです。

 企業で起きるハラスメントだと、セクハラかパワハラが中心でしょう。

 ハラスメントが起きると、一体どういった損害を企業にもたらすのでしょうか。

経済的損害

 まず、筆頭にくるのは当然、経済的損害ですよね。

 これは例えば、①被害者のコンサルテーション等の費用だったり、②交渉/裁判対応費用だったり、③賠償費用だったりします。

 ①の具体例だと、被害者が企業に被害を訴えてきた時に、当事者から事情を聴取したり、実態調査をしたりといった点にかかる人件費や時間が挙げられます。また②だと、例えば、被害者が会社に対し慰謝料等を求めて交渉や裁判を起こしてきた時に、それに対応する為の弁護士費用や対応にかかる時間が挙げられます。③は、被害者に払う慰謝料等ですよね。

 特に、皆さんの関心が大きいのは③だと思います。「パワハラ・セクハラと訴えられたら、慰謝料はいくらぐらい払うんだ?」ってことです。

 判例を見てみると、会社に対する慰謝料の相場は、大体200万円台までといった感じです。勿論、事案によっては1000万を超える場合もありますから、一概には言えないんですが、でも、ざっくりとした印象は50万円~200万円台といった感じです。

 慰謝料金額の多寡を推測する上でのポイントは、主に3点です。即ち、(a)ハラスメント行為が会社主導か否か、(b)行為自体の悪質性の程度、(c)被害の程度(鬱病や死亡等、被害が重大か否か)といった感じです。

その他の損害

 ハラスメントによりもたらされる損害は、経済的損害に留まりません。

 例えば、(a)企業全体の業務パフォーマンスの低下だったり、(b)有能な人間の流出、(c)企業評価や信用の失墜といったものがあると思います。

 ハラスメントが日常的にあるような企業だと、当然、そこで働いている従業員の士気も下がります。業務パフォーマンスも低下します。またそんな企業の雰囲気が良いわけがありませんから、優秀な従業員であればあるほど、もっと働きやすい場所を求めて転職してしまう恐れがあります。更に、ハラスメントが原因で訴訟にまで発展したりすると、それ自体で、企業評価や信用の失墜の恐れがあります。特に、最近では、ハラスメント関連の訴訟が起きると、ネットニュースで流れたりしますので、評価・信用リスクって、決して少なくないと思います。

ではどうしたら良いのか?

 多額の経済的損害を被った上に、企業全体の士気が下がり、有能な人間は出て行ってしまい、挙げ句に取引先からも「ハラスメントで揉めてる会社」なんて目で見られてしまう……。

 とてもじゃありませんが、「起きた時に考える」なんていう悠長な構えではいられません。こういった損害を避ける為には、企業は一体どうしたら良いのでしょうか。

 まず何よりも、社内におけるハラスメント対応フローを決めてしまうことです。窓口を設け、調査手続きのルールや順番、処理期間等を定め、その定めどおりに淡々と、しかし合理的に事件解決を進めていけるような態勢作りをすることが必要です。

 こういった態勢作りができてしまうと、社内のハラスメント問題を小さいうちに解決できる可能性が高くなります。誤解されたくないのですが、「小さいうちに解決する」というのは、被害者の感情が悪化する前に適切な措置を取るということであって、社内で握りつぶしてしまうということではないですよ。

 ハラスメント問題が起きたとき、多くの被害者は、最初のうちは、「ただ謝ってもらって、もうしないと約束してもらえれば良い」「あまり会社内ではもめたくない」という程度しか考えていない方も多いんですね。でも、会社がどう対応したら良いか分からずに「それぐらいのことなら、自分で相手に言ってみて下さい」とか「それは会社として対応するような問題ではありません」等と言ってしまうことがあります。そうすると、被害者からすると「握りつぶされた」とか「全く取り合って貰えなかった」と感じてしまい「私はこんなに苦しんだのに、会社は加害者の肩をもっている」と、徐々に被害感情が悪化して要求も大きくなってしまいます。最初は口頭での話合いだったのに、次は「書面で返答して下さい」となり、次は弁護士が介入し、下手すると訴訟になり、といった大きな話になってくるわけです。

 でも、窓口や調査手続きといった解決の為の態勢を完成させてしまうと、この初期の対応を誤りづらくなります。

 雇用機会均等法改正により、セクハラについては会社に防止措置義務が課せられた為、セクハラ相談窓口を設けている会社は多くなりました。しかし他のハラスメントに対する防止措置はまだまだ不十分な企業が多いと思います。

 だからこそ一度、ハラスメント全般にわたるそういった手続や制度を、法律事務所や顧問弁護士等に作ってもらい、小さいうちに問題を解決できる態勢を整えるべきです。

 「事前の予防に費やす費用より、事後の紛争解決に費やす費用の方が高い」のです。

弁護士 長谷川桃