突然ですが、皆様は、賃貸借契約に際し、更新料を請求する、あるいは請求された経験はおありでしょうか。不動産を運用して賃貸されておられる方、あるいは社屋や事業所を賃借されている方であれば、こういった経験をされているのではないかと思います。

 しかし、特に賃借人側の方であれば、この「更新料」というのは一体何なのか?「なぜこんなよくわからないお金を払わないといけないのか?」と考えたことはないでしょうか。

 私自身も、学生時代に賃貸アパートに住んでいたとき、自分にお金がないことを棚に上げて、「何でこんなお金払わなきゃいけないんだ」と1人で納得いかなかった記憶があります(結局、親に泣きついて払ってもらいました)。このように、趣旨がよくわからないながらも、住まいを奪われては困るということで、不満を抱きつつも声を上げない賃借人が多かったのか、ついに、更新料問題は全国を巻き込む訴訟沙汰に発展します。その結果、昨年、更新料問題につき判断をした最高裁判決(最高裁 平成23年7月15日第2小法廷判決)が下されました。

 そこで、今回は、不動産賃貸借におけるトラブルを避けるためにも、この最高裁判決を見ながら、「更新料とは何なのか?」「更新料の請求は適法か? 違法か?」といった疑問について検討してみたいと思います。

① そもそも更新料とは何なのか?

 更新料とは、上記最高裁判決を引用すると、

(1) 更新料は,期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に,賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁 昭和58年(オ)第1289号 同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照),更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。

 これだけ見ても、何のことかよくわからんという方は多いのではないかと思います。
 この部分が何を言っているかというと、簡単に言うと「更新料がどのようなお金であるかは、具体的事案を見なければわからないが、一般的には、賃料の補充、前払い、賃貸借契約継続のための対価等の性質を有するもの」ということです。抽象的な表現ではありますが、「賃料の補充、前払い」すなわち更新料を請求する代わりに賃料を安くして、賃借人にアピールするというのも1つの商売の方法だと思いますし、この判示部分は、更新料とは何なのかという疑問につき、一応の回答を示してくれているといえます。

② 更新料の請求は適法か? 違法か?

 では、更新料がどんなお金であるか一応わかったところで、そんな更新料を請求することは適法なのでしょうか、それとも違法なのでしょうか。最高裁は以下のように判断しました。

(2) そこで,更新料条項が,消費者契約法10条により無効とされるか否かについて検討する。

 更新料条項についてみると,更新料が,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは,前記(1)に説示したとおりであり,更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また,一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。

 そうすると,賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。

 すなわち、最高裁は、更新料請求は、高額すぎるものでない限り、適法なものであると判断したことになります。

 そして、この判決は、更新期間1年、更新料を賃料2か月分としていたこの事件について、更新料請求は適法である旨の判決をしました。更新料については、賃料の1~2か月分と設定しているものが多いため、この判決は、賃貸人にとっては嬉しい、賃借人にとっては厳しい結果になったといえます。

 なお、適法とされた理由は、大まかにいうと、①更新料を請求することに合理的な理由がないとはいえないこと、②賃貸人と賃借人の間に、更新料に関する知識及び情報量に大きな格差があるとはいえないこと、の2点です。個人的には、賃借人は賃貸人よりも立場が弱く、更新料を請求されても支払わざるを得ない立場にある人も多いので、その点に言及していない点は気にはなりますが……。また、更新料が実際に経済的合理性を有しているのかも、単にお金が多くとれるに越したことはないと考えている賃貸人がいる可能性もありますので、必ずしも有しているとはいえないようにも思います(だからこそ、裁判所も「およそ合理性がないなどと言うことはできない」と述べ、「合理性がある」とはっきり述べなかったのだと思いますが。)。

 皆様も、不動産を貸す際も借りられる際も、トラブル防止のため、更新料が高額すぎないかという点にはご留意ください。