Ⅰ.改正法の概要
現在、日本には有期労働契約による労働者は約1200万人いると言われており、本文をご覧になっている方々の属する企業でも、何らかの形で有期労働契約を締結していることと思います。有期労働契約とは、期間の定めのある労働契約のことであり、契約社員、パートタイマー及び派遣元との関係における派遣労働者など、期間の定めのない正社員以外の労働者は有期労働契約による労働者にあたるとされています。
今回の労働契約法の改正においては、まず、有期労働契約による労働者の雇用の安定のために、有期労働契約が5年を超えて反復更新されて労働する労働者に対し、5年を超える更新時の契約段階で、期間の定めのない無期労働契約への転換を申込む権利が与えられました(労働契約法第18条)。
また、有期労働契約であることをもって不利な労働条件が設定されないように、有期労働契約における不合理な労働条件が禁止されることになりました(労働契約法第20条)。
Ⅱ.無期労働契約への転換
労働契約法18条は、前述のとおり、有期労働契約から無期労働契約への転換について規定しています。
条文の文言は、「期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」とされていることから、労働者から使用者に対して無期労働契約への転換の申込みがあった場合、使用者は申込みに対して拒否できず、承諾したこととされ、有期労働契約の期間満了後に無期労働契約へと転換されることになります。
この申込権が発生するのが、「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約……の契約期間を通算した期間……が五年を超える」場合とされており、これを行使できるのが「現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日まで」とされています。
有期労働契約期間が通算して5年を「超える」必要がありますので、1年ずつの有期労働契約の場合には6回目の契約時(下記図①の太字部分)に、3年ずつの場合は2回目の契約時(下記図②の太字部分)に、申込権が発生し、当該契約時から契約終了までの間に申込権を行使することができるということになります。
Ⅲ.不合理な労働条件の禁止
労働契約法第20条においては、有期労働契約と無期労働契約の労働条件の不合理な差異を禁止しています。
条文の文言は、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては……不合理と認められるものであってはならない。」とされています。つまり、無期労働契約と有期労働契約の労働条件に差異があること自体を禁止しているのではなく、「不合理な」差異を禁止していることになります。
そして、何が「不合理」かという点については、条文の文言上「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」とされています。
「職務の内容」については、業務内容のみならず、当該業務により労働者に課される責任の程度及び権限の程度等により判断されます。「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」については、今後の見込みも含めた業務内容や責任の変更、転勤、昇進等の人事異動や役割の変化等から判断されることになります。「その他の事情」については、条件が合理的な労使慣行に反するかどうかや、労働条件の変更手続の不備等から判断されることになります。
具体的には、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、特段の理由がない限り不合理な差異とされます。
本規定の違反には民事的効力があるため、差異のある労働条件が無効となり無期労働契約と同条件になると解されているとともに、不法行為による損害賠償が認められる可能性があるので、注意が必要です。