相談

 うちの会社は、30年以上前から、タイ焼き屋を営んでいるのですが、実は、数年前に思い付きで開発した「家庭用ワンタッチタイ焼き器」が大ヒットして、今ではその製造が本業のような状況になっています。

 そんな中、最近うちの店に、下町には似合わない良いスーツを来た人達が来るようになりました。その人達が言うには、「この機会に、競争相手である他のタイ焼き機器製造会社を吸収合併して、一気に市場シェアを獲得して、株式上場をしましょう。資金はこちらでいくらでも用意できますよ。」とのことです。

 最初は、株式上場なんて興味がなかったですし、「家庭用ワンタッチタイ焼き器」で、みんなが楽しくタイ焼きをつくってくれればと思っていましたが、その人達の話によると、「競争相手を吸収合併すれば、タイ焼き機器製造シェアを90%以上占めることができ、その結果、『家庭用ワンタッチタイ焼き器』を全国に広めることができる」そうです。

 日本中の人を喜ばせることができるのは嬉しいことなので、興味が湧いてきましたが、何か法律的に問題がないか心配になったので、念のため相談にやって参りました。

1.独占禁止法における企業結合規制

 一定の規模や市場シェアを占める企業同士が合併したり、株式の持合い等の方法によって企業結合を行ったりする場合、これらの企業が属する業界全般の活性化を図ったり、合併後の企業の競争力を高める作用を生み出すことができます。その反面、当該業界において(すなわち、ある一つの市場内において)、競争相手が少なくとも一つ以上消滅することを意味しますので、特定の企業の独占状態や寡占状態を生み出してしまう場合も起こり得ます。

 この場合に、例えば、ある市場において、結合後の企業が商品の値上げを行うと、消費者は、既に商品を選ぶ機会が一方的に奪われてしまっているので、当該企業の商品を購入し続けなければならないこととなり、当該市場における競争は実質的に制限されることになりかねません。

 そこで、独占禁止法15条等は、一定規模の「国内売上高」を計上する企業同士が合併・吸収といった会社組織の再編を行う場合、公正取引委員会に対して、事前に再編の届け出をしなければならないと規定し、公正取引委員会が、当該企業の再編の結果生じる可能性のある「競争の制限」を調査することができる制度を設けております(一定量以上の株式の持合いを行う場合にも事前届出制が適用されることになります)。

 また、現行独占禁止法は、原則として、当該企業再編の届出が受理された日から30日間(短縮される場合もあります)は当該企業の再編を行ってはならない旨(すなわち、少なくとも合併等を行う30日前までには届出を行う必要があります)を規定しており、これに違反した場合、公正取引委員会から合併等無効の訴えを提起されたり(独占禁止法18条)、200万円以下の罰金が課せられたりする場合もあるので、注意が必要となります。

2.事前相談制度

 ところで、独占禁止法15条1項は、「合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」には、そもそも、企業は「合併をしてはならない」と規定しています。これは、たとえ前記「一定の規模」に達しない企業の再編等の場合であっても、不当な競争の制限を禁止するという独占禁止法の趣旨から、当該合併が実質的に競争制限をもたらす場合に独占禁止法の規制を及ぼすためのものです。

 とはいえ、「実質的に制限することとなる場合」とは、文言からは基準が明確に読み取れないので、合併等を検討している企業にとっては、規制が適用されるケースかどうかの判断がつかず、萎縮効果が生じ得ます。

 そこで、平成14年12月11日、公正取引委員会は、「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」を発表し、法律上の規定ではないものの、合併等を検討している企業が、その予定している合併に係る規制等に関し、非公式な相談が可能となるような手続を設けました。

 これにより、合併等を検討している企業に対し、事前相談の機会を設け、一定の行動指針を確保すること可能となるよう計らっております。

3.本件の回答

 今回の「家庭用ワンタッチタイ焼き器」製造会社の場合、仮に一定規模の「国内売上高」を計上する企業ではなかったとしても、タイ焼き機器製造シェアを90%占めることとなるのであれば、独占禁止法上の問題が生じる場合もあります。

 もちろん、製造する商品の市場範囲が、「タイ焼き器」市場に限定されるのか、それとも、広く「たこ焼き器、今川焼き器を含む全ての焼き物器」市場を含むのかによって、結論は異なってきますが、無用なリスクを回避するという意味では、公正取引委員会に事前の相談をしに行くことをお薦めします。

弁護士 細田大貴