こんにちは。
さて、現代においては、従業員が長時間労働を強いられ続けていることが散見され、さらに長時間労働を強いられたことにより、精神疾患に罹患してしまうことも社会の問題として多く取り上げられているところです。
そこで、今回は、長時間労働等により、精神疾患に罹患してしまった場合、会社は精神罹患について責任を負うのかという観点から、お話ししたいと思います。
会社の安全配慮義務
長時間労働と精神疾患に関しては、最判平成12年3月24日民集54巻3号1155頁において、以下のように、会社に安全配慮義務があることを認めています。
「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法六五条の三は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である。」
もっとも、会社においては使用者が直接すべての従業員の様子を監督することは困難であると考えられます。そのため、上記判例は、当該従業員の上司等、使用者に代わって指揮監督するものに、安全配慮義務に基づく対応を行うべきとしました。
そして、上記判例は、長時間労働と精神疾患の罹患の間に因果関係が認められる場合には、当該安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があると示しています。
業務の種類や繁忙期によっては、長時間労働が避けられないということは十分に考えられますが、会社としては、長時間労働を課したとしても、精神疾患等に罹患しないよう、適切な労働環境を整備しなければならないのみならず、長時間労働を課された従業員の直属の上司等にも、長時間労働に対する配慮をするよう心掛けさせる等の対策が必要となります。
では、会社として対策すべき長時間労働とはどの程度なのでしょうか。
上記判例では、長時間労働と精神疾患の罹患の間の因果関係があることから、会社に責任を認めており、当該因果関係の有無が会社の責任の有無に直結し得ることから、長時間労働と精神疾患との関係について理解することは、適切な労務環境を整備する上でも極めて重要な事項です。
そのため、次回は、長時間労働と精神疾患との間の因果関係に関する基準についてお話ししたいと思います。
弁護士 中村 圭佑