現在、会社法改正の作業が進められており、多重株主代表訴訟の導入が検討されています。
今回は、多重株主訴訟とは何か、その基本的なところを説明したいと思います。
多重株主代表訴訟とは、親会社の株主が、子会社の取締役等に対して、株主代表訴訟を提起することをいいます。
現行法では、例えば、A社の取締役が、A社に対して損害賠償責任を負っている場合に、当該取締役の責任をA社が追及しない場合、A社の株主が、株主代表訴訟を提起することが可能です(会社法847条3項。事前にA社に対して責任を追及するように請求しておくことが必要です〔同条1項〕)。
これは、役員等が同僚の取締役の責任追及に積極的になれない可能性を考慮して作られた制度です。なお、提訴の手数料は一律13,000円とされています(会社法847条6項、民事訴訟費用等に関する法律4条2項)。
これはこれで合理的な制度ではあるのですが、問題もあります。
現在では、会社は様々な形でつながっており、特に、親子会社関係などはまま見られるようになっています。会計上も、連結財務諸表が重視されています。
しかしながら、上記の株主代表訴訟では、会社を飛び越えて、取締役の責任を追及することはできません。法的には、子会社の取締役の責任を問える株主は、親会社自身であって、親会社の株主ではないからです。
ですが、親会社株主から見てみると、連結して決算され、経済的には親子会社全体で1つの主体なわけですから、子会社の損害は、親会社の損害でもあるからです。すなわち、子会社が損失を被ることによって、親会社の株主に損失が生じることがあるということです(もちろん、子会社の損失によっても親会社に損失が生じない場合も、逆に親会社に利益になる場合も存在します。)。
そこで、親会社の株主は、問題を起こした子会社の取締役に対して責任を追及したいと思うわけです。
現行法上、考えうる手段として、子会社の取締役に責任追及をしないこと自体を、親会社取締役の善管注意義務違反と考えて、親会社取締役の責任を追及することが考えられます。
しかし、この方法では、親会社取締役の行為が、必ず親会社に対する義務違反になるとは言えず、したがって、子会社の取締役が子会社に責任を負っているのに、親会社の取締役に責任を追及できない、という場合が存在することになります。
そこで、思い切って親会社の株主に、子会社の取締役への責任追及を認めてしまおう!というのが、この多重株主代表訴訟の制度です。
現在、基本的には導入の方向で進んでいる多重株主代表訴訟ですが、中小企業の方からは、子会社が一斉に訴訟リスクに晒されることになることから、反対の意見も強くありました。今後、導入された場合に、どのように運用されていくのか、弁護士として見守っていく必要があるところです。
弁護士 水野太樹