こんにちは。取締役等の役員等として株式会社の経営に携わっておられる方々は、役員等が任務懈怠により株式会社に損害を生じさせた場合には株式会社に対し(会社法423条1項)、職務を行うについて悪意・重過失があり第三者に損害を生じさせた場合には当該第三者に対し(会社法429条1項)、損害賠償責任を負うことはご存じのことと思います。

 今回は、役員等の第三者に対する責任(会社法429条1項)について注目すべき裁判例(京都地判平成22年5月25日・判タ1326号196頁)をご紹介します。

 本判決の事案は、飲食店経営を業とする会社において長時間労働していた従業員が急性心不全により死亡し、従業員の遺族が会社と取締役を相手取り不法行為または会社法429条1項に基づき損害賠償を求めたというものです。

 本件で注目されるべき点は、本判決が取締役に会社法429条1項に基づく責任を認めた点です。
 これまで、同種事案で取締役に対し損害賠償責任を認めた裁判例(東京地判平成8年3月28日・判タ973号174頁、大阪地堺支部判平成15年4年4日判タ1162号201頁、大阪高判平成19年1月18日労判940号58頁等)では、責任を負うとされた取締役が、直接労働者の勤務状況について認識しうる程度の小規模の会社の事案でした。
 ところが、本件の被告会社は一部上場している大企業であり取締役が直接労働者の勤務状況について認識し、健康管理をすることは不可能でした。しかし、本判決は、取締役の会社に対する善管注意義務から取締役らに労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を認めたうえで、取締役らは被告会社において長時間労働を前提とする勤務体制や給与体系をとっていたこと及びその体制に基づいて労働者が就労していることを十分認識し得たことから、悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていたということができ任務懈怠が認められるとして、会社法429条1項の損害賠償責任を肯定しました。

 本判決の立場からすれば、長時間労働を前提とする勤務体制を取っている会社の労働者が、過労等によりその生命、健康が損なわれたとして取締役の責任が問題となるケースでは、悪意又は重過失の要件を争ってもこれを否定することはできないと思われます。
 長時間労働の下で労働者に過労が原因となりうる生命、健康被害が生じた場合に、過労と被害との因果関係を否定することも容易ではありません。
 したがって、本判決の立場からすれば、長時間労働を前提とする勤務体制を取っている会社等で過労による健康被害が生じた際には取締役は損害賠償責任を免れることは難しいといえるでしょう。