企業の取引を規制する法律の中には、力の弱い一方当事者を力の強い他方当事者から守ることを目的としたものがあります。例えば、企業と消費者との間の取引に関する法律は一般的にこれにあたりますし、企業間の取引に関するものでも、親事業者と下請事業者の間の下請いじめ防止を目的とした下請法等はこれにあたります。

 さて、これらの法律においては、目的達成のため、取引で使用する書面に記載すべき事項が決められている場合があります。これらの事項は法定記載事項といって、これを欠く書面を使用していると、監督行政庁から処分を受けたり、企業名が公表されたり、行政指導を受けたり、罰金が科せられたりという不利益を被ることになります。

 ですので、これらの法律が適用される取引をする場合には、行政からお叱りを受けないきちんとした書面を使わなければいけません。

 では、実際に自分の会社が使っている書面が正しいかどうかはどうやって調べればよいのでしょう。

 まずは、法律、規則です。法律の中に書くべきことは明確に定めてあります。だからこそ「法定記載事項」なのです。これらの書面を法律の条文を取って「●条書面」と呼ぶこともあります。

 しかし、これだけでは足りません。行政庁からの通達やガイドライン、そのほかにもQ&A集等が出ている場合もあるので、そういう「お上」の出しているものに目を通して、そこでの指摘事項をきちんと満たしているかを確認します。場合によってはサンプルの書面が載っている場合もありますので、自社の書面と比べてチェックします。

 さらに、同業他社が取引で使っている実績のある契約書面も参考になります。

 最近は、インターネットで検索すると、たくさんサンプルが出てきますが、これらはあくまでも参考にとどめて下さい。そのまま使用することは大変危険です。
 どうしてもわからない場合は、行政庁の問い合わせ窓口で確認して下さい。

 しかし、そういう、おかたいガイドライン等に載っているサンプル書面だと、実務で使いにくいという場合もあります。例えば、実際に業務で使われている用語ではない用語や言い回しが使われていて、意味がわかりにくいという場合もあるでしょう。しかし、そういう場合でも、できるだけ、行政がお墨付きを与えた、そのおかたい用語や言い回しを使うべきです。基本的には、行政の指導というのは、「あらさがし」なので、できるだけ突っ込みどころを作らない方が絶対に得策です。

 書面の法定記載事項については、「長いものに巻かれろ」。この言葉を肝に銘じることがリスクを減らすことにつながると思います。

弁護士 堀真知子