はじめまして。弁護士の山本と申します。
今回のテーマは、アパート等の賃借人が素行不良者であったり、または反社会的勢力の関係者であったりすることを想定し、かかる場合を契約解除事由とした特約を契約書に盛り込む意味についてです。
多くの建物賃貸借契約書においては、例えば以下のような条項が契約解除事由として定められていると考えられます。
① 借主や同居人等が反社会的団体の関係者であったとき
② 借主が反社会的団体を物件に出入りさせたとき
③ 借主や同居人等が物件や近隣で粗暴なふるまいをし、他の住居者や近隣住人へ迷惑を与えたとき
これらの条項の違反があった時、賃貸人は契約を解除することができるのでしょうか。
この時、当該条項に違反したことのみを理由に、賃貸人が契約を解除する場合、現在の裁判を見る限り、それは困難であると考えられます。裁判において賃貸借契約の解除が認められるためには、契約違反だけでなく、信頼関係が破壊されていることが求められているからです。賃貸人が賃貸借契約を解除するためには、当該条項に違反したことに加えて信頼関係が破壊されたことまで主張、立証しなければなりません。
すると、上記のような解除条項を定めることに、どれほどの意味があるのでしょうか。
信頼関係が破壊されているか否かは、契約締結の経緯や条項の内容の合理性、違反の程度など諸般の事情を総合考慮して判断されるものです。上記のような解除条項を定めておけば、賃貸人は平穏な物件環境を保ってくれる賃借人と契約したいという自らの姿勢を示すこととなり、賃貸人が賃借人との間で求めている信頼関係がどのようなものかを客観的に表すことができると考えます。すると、賃借人につき条項違反の事実が明らかになった時、定めがない場合に比べ、その他の信頼関係を破壊する事情と合わせれば、信頼関係の破壊を主張することが容易になる可能性があります。
建物賃貸借契約は一度締結すると長期間継続するため、賃借人に物件を平穏に使用してもらうことを賃貸人が希望することは一般的ですし、賃貸人の一方的な横暴とみなされるとは考えづらいでしょう。よって、条項の内容についても、上記のようなものは一般的にその合理性が認められるものと考えられます。
上記のような解除事由を定めていないけれども、たとえば賃借人が、契約違反はないものの粗暴な人物なので出て行ってもらいたい場合は、解除が無効と判断される可能性があると考えられます。個人の居宅の明渡しを求めるのですから、裁判所は信頼関係の破壊を強く求める可能性があります。相手についても、家賃をきちんと払って物件を破損させたりしないのなら、契約違反もないため、信頼関係の破壊が認められ難いと考えます。
賃借人が、他の入居者や近隣にまで迷惑を及ぼす人物であった場合、契約を解除して物件の明渡しを受けることで、他の入居者や近隣の生活を守ることともなります。物件の近くに問題のある入居者がいないかということは、一般に部屋を借りる際の関心事項であると考えられるので、平穏な住環境を乱す賃借人等を置かないことを示すのは、物件に新たな賃借人を入居させるためにも大切なことであると考えられます。