第1 行政上の規制・義務

 宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者に対して、多くの行政上の規制・義務を課しています。
 主として、重要事項説明義務が挙げられますが、その他にも、免許制度、宅地建物取引主任者の設置義務、広告規制、取引態様の明示、契約締結時期の制限、契約成立後の書面交付義務、守秘義務、報酬額の規制、重要な事実の不告知又は不実告知の禁止、断定的判断の提供の禁止等の多くの規制が課されています。
 今回は、広告規制について、若干詳しく説明したいと思います。

第2 広告規制について

 広告については、その内容及び時期に規制が加えられています。まず、宅地建物取引業法(以下、「法」といいます。)32条には、誇大広告の禁止が定められており、法33条に工事完了前の広告時期の規制が定められています。

 広告内容については、詳細に禁止事項が定められています。法32条は、「所在、規模若しくは現在若しくは将来の利用の制限、環境若しくは交通その他の利便又は代金、借賃等の対価の額若しくはその支払い方法若しくは代金若しくは交換差金に関する金銭の賃借のあっせん」について、「著しく事実に相違する表示」をし、又は「実際のものよりも著しく優良であり若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない」と定めています。

 誇大広告の禁止対象として、大まかに分類すれば、物件の所在、物件にかかる制限、物件の代金や借賃等の金銭にまつわる情報が挙げられています。
 例えば、売買契約においては、物件の所在が間違っていれば、売買対象物を誤ることになり、錯誤等の原因となり得ますし、物件にかかる法令上の制限は瑕疵に該当し得ると考えられます。また、売買代金の説明不足も場合によっては、詐欺や錯誤の原因となり得ると言えると思います。
 ゆえに、これらの情報は、契約を締結するにあたって、民事上の契約締結の有効性からしても、最も基本的な情報と言っても良いでしょう。

 法は、これらの基本的な情報に関して、「著しく事実に相違する表示」をすること、又は「実際のものよりも著しく優良であり若しくは有利であると人を誤認させるような表示」をすることを禁止し、違反に対しては、罰則及び行政処分(指示、業務停止、免許取消)を定めています。ゆえに、誇大広告の禁止対象は、基本的な情報に限られていますが、違反に対する措置は比較的重い部類ですので、十分に注意する必要があります。

 法32条は、「著しい」誇大広告を禁止していますので、単に事実に相違がある場合などは罰則等の対象になるわけではありません。誇張、誇大の程度が、社会一般に許容されている程度を超えていることが必要です。
 著しいか否かは非常に難しい問題ですが、個々具体的な事案ごとに、一般の購入者等からみて、判断すべきであるとされています。
 国土交通省の定める解釈・運用の考え方によれば、「一般購入者等において広告に書いてあることと事実の相違を知っていれば当然に誘引されないものをいう」とされており、例として、市街化調整区域に所在する物件を市街化区域と表示したり、築後10年の建物を1年と表示したり、地目が農地である土地を宅地とした場合などが挙げられています。
 また、おとり広告も禁止の対象であり、実際に売却することができない物件を広告することも禁止対象となっています。

 なお、罰則や行政処分との関係でいえば、顧客が実際に誤認したか否かは関係がありません。行政上の規制目的は、実際に誤認した顧客の保護ではなく、そういった顧客を未然に防ぐことにあるからと考えられます。