1 はじめに

 こんにちは、弁護士の伊藤です。
 今回は、マンションの管理規約における動物の飼育禁止の規約の効力について、近時の裁判例を踏まえて、検討したいと思います。

2 動物の飼育を禁ずる規約

⑴ 社会的背景

 近時、核家族化やdinks世帯の増加などによる世帯人員の減少[1]などを背景として、生活の豊かさを求めてペットを飼育する動き[2]が広がっています。

 他方で、ペットを巡るマンション住民同士のトラブルを防止するために、マンション管理規約の中に専有部分を含めたマンションの敷地内における動物の飼育を禁止する条項(以下「動物飼育禁止規約」といいます。)を設ける例がしばしばみられます。

⑵ 法的な根拠

 動物飼育禁止規約は、「建物又はその敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者間の事項」(建物の区分所有等に関する法律(以下「法」といいます。)30条1項)として、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(法31条前段)によって、原則として定めることができます(法30条1項、46条)。

⑶ 法的な問題点

ア 「特別の影響」(法31条後段)

 法は、規約の変更について、所有者及び議決権による多数決の手続きを規定する一方で、少数者を保護するために[3]、一部の区分所有者の権利に「特別の影響」(法31条後段)を及ぼす場合には、その承諾を得なければならない旨規定しています。

 動物飼育禁止規約が、一部の区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼす場合にあたり、一部の区分所有者の承諾を得なければ、その効力が認められないのではないかが問題となります。

 この点につき、裁判所[4]は、以下のような判断を示しています。

 すなわち、そもそもマンション等の集合住宅においては、各戸の住民の生活形態が相互に極めて重大な影響を及ぼし合うという実情を踏まえれば、管理規約等により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむをえません。

 そうすると、「特別の場合」とは、規約の設定・変更等の必要性及び合理性ないしこれにより区分所有者全員が受ける利益と対比して、一部の区分所有者の受ける不利益が受忍すべき限度を超えていると認められる場合をいう[5]と解されます。

 ペット等の動物の飼育は、通常、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠というわけではありません。

 それゆえ、動物の飼育を禁止する規約を設けても、「特別の影響を及ぼす場合」にはあたらず、したがって動物を飼育している居住者等の承諾は必ずしも必要ではないということになります。

イ 限定解釈

 動物飼育禁止規約がある場合でも、本来専有部分は各区分所有者がその意思で自由に利用できることにかんがみて(民法206条参照)、動物の飼育禁止は実害の発生またはその蓋然性の存する場合のみに限定して適用されるべきとの主張がなされることがあります。

 この点につき、裁判所[6]は、マンション内における動物の飼育は、衛生上の問題、鳴き声による騒音、咬傷事故等有形の影響だけでなく、生態自体が他の居住者に対して不快感を生じさせるなど無形の影響を及ぼすおそれもあることから、実害または実害発生の蓋然性を要件とせず、一律に動物の飼育を禁止することが認められる旨の判断を示しています。

3 最後に

 以上のとおり、マンション内における動物の飼育を一律禁止する規約は、原則として有効であると考えられます。

 ただし、飼い主の身体的障害を補充する意味を持つ盲導犬のように、何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する特段の事情がある場合には、その動物の飼育を禁じることは前記のような事情を抱える飼い主の当該マンションにおける生活・生存自体を制約することになってしまうため、動物飼育禁止規約を機械的に適用することは差し控えられるべき[7]と考えられます。

 今回のお話は以上となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁護士 伊藤蔵人

[1] 「国勢調査」によれば、1世帯あたりの人員数は減少傾向にあり、昭和55年には1世帯あたり3.22人であったものが、平成22年には2.46人に減少している。
[2] 「家計調査年報・家計収支編」によれば、1世帯あたりのペットに関する支出(ペットフード代、動物病院代など)は、趨勢的に増加しており、平成15年には年間1万2704円であったものが、平成22年には年間1万4832円(平成15年比17%増)に増加している。
[3] 和根崎直樹「東京高裁平成6年8月4日第4民事部判決」(判タNo.882(以下「和根崎」)‐46頁)
[4] 東京高判平成6年8月4日・判田855号301頁
[5] 和根崎47頁
[6] 最判平成10年3月26日・ジュリストNo.192―196頁
[7] なお、身体障害者補助犬法は、国等、公共交通事業者等及び不特定かつ多数の者が利用する施設を管理する者が、当該施設等を身体障害者が利用する場合において身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならない旨規定する(同法7条1項本文、8畳本文、9条本文)。