今回は、独占禁止法の「不公正な取引方法」の類型1つである「差別対価・取引条件等の差別的取り扱い」についてお話したいと思います。

 価格その他の取引条件は、市場原理・競争原理によって、需給調整が機能して決まるものであり、取引ごとに価格や条件に差があること自体は不当とはいえません。そのため、不公正な取引方法として取り締まりの対象となる「差別対価・取引条件等の差別的取り扱い」は、単に価格や取引条件等に差があるというだけでなく、その差に取引上の合理性が認められないような場合に限定されます。

 たとえば、市場支配力を持った企業が、競争相手のいる地域でのみ不当に安価な販売を行い、競争相手を排除するような場合です。これによって、不当に人為的な安価を設定して、競争者を市場から駆逐して、非競争的な状況が作り出されたり、新規参入が阻止されたりすることは、公正な競争が阻害されるため許されません。

 価格や取引条件の差が、市場による競争状況を反映した結果であるのか、公正な競争を阻害するような「不当な」価格差なのかという判断は、なかなか難しいと思います。

 最近の事例でも、A社がLPガスの販売にあたり既存の一般家庭顧客向けと他業者からの切替用の拡販価格との間に価格差を設けていることが「差別対価」に当たるとして差止請求がなされたものの「差別対価」には当たらないと判断されたものがあります(日本瓦斯LP瓦斯差止請求事件)。

 この事案の高裁判決では、不当な差別対価とは、価格を通じた能率競争を阻害するものをいい、「当該売り手が自らと同等あるいはそれ以上に効率的な業者(競争事業者)が市場において立ちいかなくなるような価格政策を取っているか否か」を基準に判断するべきであり、「不当な差別対価に当たるかどうかの判断においては、原価割れの有無がその要素になる」とされました。

 具体的には、市場の競争状況、競争者の有無・数、当該事業者の市場に占めるシェアなどが考慮された上、販売価格についても、標準価格、価格差の根拠、価格差の目的、総販売原価との関係などが総合的に判断されています。

 なお、平成21年の法改正により、差別対価による取引のうち、継続して商品又は役務を提供するもので、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものについては、課徴金の対象とされることになりました。