前回の記事はこちら:不動産投資入門8(契約の解除)

(3) 建物明渡請求

 賃貸借契約が終了したのに、賃借人が建物を明け渡さずに居住しつづけているようであれば、賃貸人としては、賃借人に対して建物明渡しを求める訴訟を起こす必要があります。ちなみに、契約終了後は、賃貸借契約が存在しませんので、その後の居住について賃料を請求することはできませんが、賃料と同額の「賃料相当損害金」を請求することができます。したがって、建物明渡請求訴訟では、建物の明渡しのほか、これまでの不払賃料に加えて、明け渡しに至るまでの賃料相当損害金も併せて請求するのが通常です。

 この段階まで来ると、さすがにご自分や賃貸管理業者では対応できませんから、弁護士の登場となります。訴訟自体は弁護士に任せるとしても、一応流れは掴んでおいてください。弁護士が裁判所に訴状を提出してから第1回口頭弁論期日が開かれるまで、約1ヶ月半かかります。第2回口頭弁論期日以降は、概ね毎月1回程度です。つまり、月1回のペースで裁判はゆっくり進行するということです。そして、特に賃料不払いを理由に契約を解除し建物の明け渡しを求めている場合には、多くの場合、訴訟期間中賃料を支払ってくれません。したがって、その間、賃料の滞納額はどんどんかさんでいきます。

 判決が出されたからといって、直ちに賃借人が建物を明け渡してくれるとは限りません。賃借人が明け渡しに抵抗する場合には、別途、強制執行の手続きを執る必要があります。

 建物の明渡しにかかる費用もばかになりません。弁護士に支払う弁護士報酬だけではなく、建物明渡の強制執行の費用も発生します。特に、相手が最後まで抵抗し、断行(室内の動産を全て搬出して、強制的に明渡しを実現)まで行くと、室内に残された残置動産の保管費用もかかります。

 では、これまでの不払賃料や賃料相当損害金はどうなるのかと言うと、もちろん法律的には請求できますが、現実的には回収困難です。考えてみればわかると思いますが、明け渡した賃借人は、当然引越をして別のところで生活を再開せざるを得ません。新たな居住先では、もちろん賃料が発生します。賃借人の立場からすれば、居住していないところの滞納賃料と、現に今生活しているところの賃料と、どちらの支払いの優先順位が高いかと言えば、言うまでもなく、今住んでいるところの賃料です。常識的に考えれば、滞納賃料を支払う経済的余裕などありません。したがって、これらの債権を回収することは著しく困難であることを知っておいてください。

 このような事態に陥れば、最終的に建物の明渡しを実現しても、投資利回りに大きな悪影響を及ぼすことは多言を要しないでしょう。日頃からこのような事態を避けるような賃貸管理が重要です。