前回の記事はこちら:不動産投資入門5(不動産投資利回り(続編))
(1) 滞納賃料と債権回収
ファンド案件への投資であれば、大勢の賃借人に対する賃貸借でいわば分散投資されているので、一部の賃借人が賃料を滞納しても一定のリスク・ヘッジがかかっています。
しかし、自ら購入した不動産を他人に賃貸した場合、賃料の滞納は、投資利回りを大きく低下される原因となるので注意が必要です。私の経験だと滞納期間が3ヶ月に達すると、賃料の支払いを正常化できなくなります。
このような事態を防ぐためには、滞納者に対して速やかな取り立てを行う必要があります。個人的には、支払期日を1日でも遅れたら支払いの催促をするくらいの感覚でいてほしいところです。
もっとも、賃料の支払いについては、仲介してくれた賃貸管理業者に委託するのが通常です。したがって、賃料の滞納があると、管理業者が代わりに取り立てを行ってくれるので、皆さんが自ら取り立てを行う必要がないのが実務の実態です。但し、この賃貸管理業者による取り立て行為は、厳密に言うと違法です。債権回収を代理人として行うことは、たとえ電話一本であろうと、サービサーなど法が特別に認めた場合を除き、弁護士の独占業務となっているからです[18]。賃貸管理業者があまりに厳しい取り立てをしたために、弁護士会に駆け込まれ、弁護士会が調査に乗り出したという話も実際にあるようです。
ちなみに、債権回収を行う場合に、どこまで賃貸管理業者が行い、どの時点から弁護士を利用するのか、その判断に関しては賃貸管理業者がペースを握っているのが現状です。したがって、賃貸管理業者の対応が遅いとそれだけ不良債権化が進み、回収が益々困難になってしまいます。賃貸管理業者にお願いする場合は、賃料の滞納が生じた場合の対策について、具体的スキームを忘れずに確認してください。
次に、具体的な債権回収方法ですが、交渉しても賃借人が賃料を支払ってくれない場合、法的手段を用いるしかありませんが、法律の素人であっても利用しやすい制度があります。「支払督促」と「少額訴訟」がそれです。
支払督促とは、債権者である賃貸人に代わって、裁判所が債務者である賃借人に支払いの督促をしてくれる制度です。支払督促が債務者に到達してから2週間以内に債務者から異議[19]が出されなければ、仮執行宣言[20]を経て強制執行も可能となります。少額訴訟とは、60万円以下の支払いを求める場合に利用できる簡易な訴訟手続きです[21]。滞納賃料の総額は、大概この金額の範囲に収まるはずです。少額訴訟は簡易裁判所が管轄し、原則として1日の審理で判決を出す仕組みになっているので、簡易かつ迅速な紛争解決に便利です[22]。
[18] 弁護士法第72条。なお、司法書士にも現行法では簡裁代理権があるので、その限度で債権回収行為を代理することは可能である。行政書士の場合は、その金額の多寡を問わず、債権回収を代理して行うことはできない(最近、内容証明郵便による催促状などに、行政書士が“書面作成代理人”と称して自己の氏名と連絡先を表記しているケースがあり、問題として指摘されている)。
[19] 債務者から異議が出されると、訴訟手続きに切り替わってしまう。
[20] 仮執行宣言を得るには、別途申立が必要である。なお、仮執行宣言付の支払督促に対し、債務者が受領してから2週間以内に異議を出さなければ強制執行が可能となるが、異議が出てしまうと訴訟手続きに切り替わってしまう。
[21] 但し、少額訴訟の利用は、同じ簡易裁判所に対して、年間10回までに制限されている。
[22] 敗訴してしまった場合、判決を受領した日の翌日から2週間以内に異議を申し立てれば、再審理を受けることが可能である。但し、その場合には通常訴訟に移行してしまう。