1.安全配慮義務
一般に、使用者は、労働者に対して、安産配慮義務を負うとされています。安全配慮義務について判例は、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮する義務」(最判昭和59年4月10日)と定義しており、近年は、設備等の安全を保つことだけでなく、業務上生じうる疾病等についても配慮しなければならないとされる傾向にあります。
また、労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定しており、法律上も、使用者が安全配慮義務を負担することが明確にされました。
2.安全配慮義務の法的構成
安全配慮義務違反は、使用者の債務不履行を構成すると考えられており、不法行為とは異なり、以下の点に特徴があります。
① 債務不履行の事実の立証責任は労働者にあるが、帰責事由の不存在は使用者が立証責任を負う
② 時効は10年
③ 遺族固有の慰謝料(民法711条)は認められない
④ 遅延損害金の起算点は請求日の翌日から
3.過重労働に起因する疾病・死亡(いわゆる過労死)について
使用者の安全配慮義務の一環として、過重労働に起因する脳・心臓疾患死については、使用者が「労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保」し、「健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び内容の軽減、終了場所の変更等の適切な措置を採るべき義務」がある等とする裁判例が蓄積されています。
なお、脳・心臓疾患死の事例の場合、厚生労働省が定める「脳・心臓疾患の業務上認定の基準」(平成13年12月12日基発第1063号)において定められている労働時間基準を超える長時間労働(例えば、過労死前の6ヶ月間にわたって、時間外労働が1ヶ月80時間を超える場合)などの過重な業務への従事が認められれば、特段の事情がない限り、相当因果関係が認められる傾向にあります。
労働時間基準の他、過労死に関する裁判例が、主に考慮している要素は、①労働時間・業務状況の把握をしていたか、②健康診断や日常の観察に基づく心身の健康状態の管理把握を怠っていなかったか、③適正な労働条件の確保がなされていたか、④労働時間・業務を軽減する措置を採ったか、といった点が考えらます。
したがって、使用者・管理者としては、労働時間基準を超える労働者がいないかどうか、脳・心臓疾患のおそれがある健康状態の者がいないかどうか把握できる環境を作り、また、労働時間基準を超える労働を行っている者については、時間外労働の減少させるために、業務量を減らしたり、一人の労働者に業務が集中しないように人員を確保するなどの措置を十分に採る必要があると考えられます。