今回は、会社法433条1項における、株主の閲覧謄写請求の対象となる会計帳簿等の範囲及び当該請求権を行使する場合の問題点について考えてみたいと思います。

1.対象の範囲について

 総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主または発行済み株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内は、いつでも、「会計帳簿又はこれに関する資料」の閲覧謄写を請求することができます(会社法433条1項前段)。
 「会計帳簿」とは、計算書類およびその付属明細書の作成の基礎となる帳簿をいい、「これに関する資料」とは、その会計帳簿作成の材料となった資料をいうとされます。

 旧商法下の裁判例において、総勘定元帳、手形小切手帳、現金出納帳、売掛金に関する売り上げ明細補助簿が「会計ノ帳簿及書類」(旧商法293条ノ6第1項)に当たるとしたもの(横浜地判平成3年4月19日)、法人税確定申告書控及び案について「会計帳簿及書類」にあたらないとしたもの(東京地決平成元年6月22日)、決算報告書、当座預金照会表、普通預金通帳、請求書控え・納品書控え・領収書控え、経費・固定資産税に関する領収書・請求書全部について「会計帳簿及書類」には該当しないとしたもの(横浜地判平成3年4月19日)があります。

 会社法433条1項の「会計帳簿又はこれに関する資料」の意義は、旧商法下の「会計ノ帳簿及書類」の意義の解釈と異なるものではないと考えられているようであることから、これらの裁判例における会計帳簿等閲覧謄写請求権の範囲が、基本的には会社法上にも妥当すると考えられます。

2.閲覧謄写請求権を行使する場合の問題点

 また、会計帳簿又はこれに関する資料について閲覧謄写請求権を行使するためには、請求理由を明らかにしてしなければなりません(会社法433条1項柱書)。

 この点、株主において会計帳簿等の対象範囲を特定する必要があるか否かについては問題があり、裁判例には、

「対象物を単に会計の帳簿及び書類と申立てるのみでは足らず、例えば何年度のいかなる帳簿及び書類であるかを具体的に特定する必要がある」

と判示しているもの(仙台高判昭和49年2月18日判タ307号209頁)もあれば、他方、

「帳簿等の閲覧謄写を求める理由が具体的に記載されていれば、閲覧謄写を求める帳簿等の範囲・種類・年度まで記載されていなくても、会社において必要と認める限度で帳簿を閲覧謄写させれば足りるのであるから、あらゆる場合にまで帳簿等の年度を具体的に特定しなければ適法な帳簿等閲覧謄写請求といえないと解することは妥当ではない」

と判示しているものもあります。(名古屋地決平成7年2月20日)

 このように、何年度のどの帳簿というように、閲覧対象まで具体的に特定して請求しなければならないか否かについては、裁判例上判断が固まっていないところであり、学説上も争いがあるところです。