皆様、こんにちは。
1 イントロ
「サブプライムローン問題で会社の経営が悪化して・・・・・・」というフレーズはもはや枕詞として定着してしまった感があるかもしれません。
会社としてはアルバイト、派遣社員、契約社員等、契約を打ち切りやすい属性の方から人員整理を始めていくことになると思います。
正社員と契約社員は期間の定めのない労働者と期間の定めのある労働者に大別されます。正社員に対しては解雇のみならず、様々な局面で処遇を慎重に検討せざるを得ません。
もっとも、契約社員であっても局面によってきちんと対応を練らなければなりません。今回はその例として、休業中の賃金請求権の取り扱いについて裁判例を紹介いたします。
2 事案の概要
とある自動車会社の工場において、不況に伴い、製造現場を担当する契約社員に対して、契約期間中ながら解雇予告を行いました。
これに対して、一部の従業員は解雇予告の効力の停止を求めました。
これを受けて、会社は解雇予告を撤回した後に、契約社員らに対して、合意解約の申し入れ(退職してもらうように求めること)を行いました。それと同時に、上記の合意解約に応じなかった者に対しては、契約満了日まで休業扱いにすると伝えてきました。
会社は、合意解約に応じた者には、残り契約期間分に対する賃金の85%相当額を支払い、外にも退職時期が早まったことによって生じる満期慰労金の減額分の補てんをする等の対応をしていました。
他方で、休業扱いとなった者には、残り契約期間内は休業手当として、賃金の60%を支払うのみの対応でした。なお、正社員は1ヶ月に数日程度の休業を入れただけで、賃金全額が支払われていました。
契約の更新を求め、休業扱いとなった従業員はこの処遇を不満に思い、契約の残り期間の賃金額と休業手当の差額分の支払いを求めました。
3 裁判所の判断
(1) 裁判所(宇都宮地裁栃木支部平成21年5月12日決定)は、賃金と休業手当の差額を支払うように命じました。
(2) 今回のような賃金の請求権が消滅するという不利益を被ることになります。裁判所はこのような不利益を与えることが許されるには合理的な理由が必要であると労働契約法10条を根拠に説明しています。
そして、本件では
「合理性の有無は,具体的には,使用者による休業によって労働者が被る不利益の内容・程度,使用者側の休業の実施の必要性の内容・程度,他の労働者や同一職場の就労者との均衡の有無・程度,労働組合等との事前・事後の説明・交渉の有無・内容,交渉の経緯,他の労働組合又は他の労働者の対応等を総合考慮して判断すべきである。」
としています。
検討の中で、
「本件休業では,休業期間中に各人の平均賃金の60パーセントの休業手当が支給されることとされているものの,この不支給の40パーセント相当額が通常の労働者にとっていかに重要な金額であって,これを,使用者側の決定によって一方的に喪失させられることが,それぞれの労働者側にとっては,まことに過酷であり,重大な不利益を及ぼす処分であることは,社会通念上,顕著に認めることができる。」
と案に生活への影響も危惧していることがうかがえます。
さらに、
「債権者ら期間労働者に対する本件休業のように,包括的,かつ,一律に,契約期間の満了日までの数か月という長期間にわたる休業によって,一方的に期間労働者に不利益を課する休業処分(休業命令)の合理性は,期間の定めのない労働者に対する場合と比べて,より高度なものを要するというべきである。」
と契約期間内の雇用を保障すべきという考え方が反映されていることもわかります。
「のみならず,使用者が期間労働者に対して,そのような包括的,かつ,一律の休業をした場合にあっては,その休業対象者に与える不利益の重大性に鑑みると,その後の休業対象者に対する雇用需要の変化の有無・程度のほかに,休業対象者の人数の増減の有無・程度と,その人数に対する賃金カットによる使用者の経営上の利益の多寡の変化の有無・程度,他の労働者との均衡等について,日々刻々と考慮に入れて,適時に,休業処分(休業命令)による労務の受領拒絶の撤回や,包括的,かつ,一律の休業処分の停止と個別の休業日の設定,休業手当金額の増額等の措置の可否と当否を検討,判断して,できる限り,その不利益の解消を図るべきである。」
(3) 検討の結果、裁判所では、検討の結果、本件休業の合理性は認められないとして、賃金の差額の支払いを拒むことはできないと判断しました(ここでは細かな法律論が絡んでいるのですが今回は割愛いたします。)。
4 最後に
上記の裁判例では、休業に伴う賃金のカットは社員の生活に対する影響が非常に強いといえることから、会社は可能な限り不利益の回避・解消を図るべきである、と謳っているところが重要かと思われます。
本件の会社にしてみても、契約社員の方々に対して全く無下に扱っているわけではありません。多くの契約社員は、合意解約に応じて退職していました。しかし、裁判所は、合意解約と休業の二者択一の状況を作出したこと自体を評価していませんでした。今回休業となった者は契約の更新を望んで、合意解約を拒否していたからです。
さらには正社員との差別的な取り扱いについても言及していました。前記のとおり正社員は通常通りの賃金をもらうことができていたのですが、休業扱いになった契約社員は数名程度であったので、休業手当を60%に止めておく意味があったのか疑われたように読めます。会社側が労使交渉にも消極的であったこともマイナスに取られたようです。
会社の経営状態や社員の動向等、全体とのバランスを欠いてしまうとNGという評価を付けられやすくなります。
裁判沙汰となってしまうと、判決等に従って幾ばくかの金員を支払えば済むというわけではなく、従業員等への扱いの悪さ、トラブル対応のまずさが対外的に明らかにされてしまうことがあります(私が見た判例集では会社名が記載されていました。)。
契約社員であっても契約関係に重要な変更をもたらす場合は慎重な検討が必要です。正社員でないから大きな問題にはならないというわけではありません。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。