今回は、標記のとおり、いわゆるリゾートマンションにおける規約の変更が、この変更に同意しない区分所有者との関係では無効であるとされた事例についてご紹介します。

東京高裁平成21年9月24日判決

 本件は、被控訴人が、平成18年7月1日、箱根仙石原マンション(以下「本件マンション」という)について、専有部分の用法や区分所有者の費用負担について、本件マンションの管理規約(以下「本件管理規約」という)を制定したことに関し、原判決別紙物件目録記載1の建物(以下「本件居室」という)の所有者である控訴人甲野花子(以下「控訴人甲野」という)が、管理規約の無効確認並びに管理費及び修繕積立金につき短期所有者の負担額を超える金員の支払債務の不存在確認を請求するとともに、本件居室を使用する控訴人乙山松子(以下「控訴人乙山」という)が、本件居室を住居として使用する権利を有することの確認を求めた事案です。

 原審(第1審)は、控訴人乙山の訴えは不適法であると却下し、控訴人甲野の請求はいずれも理由がないとして棄却したので、控訴人らがこれらを不服として控訴し、控訴人甲野は当審において無効の確認を求める条項の範囲を上記のとおり縮減した。

 本件の東京高裁は、おおむね以下のとおり判断しました。

 本件マンションの所在する箱根町は、天然温泉、自然の景観等に恵まれているため、観光、登山、ゴルフ、テニス、ドライブなどのレジャーの拠点として、また温泉で保養が出来る場所として、大企業や公共団体が、箱根町及びその周辺に保養施設を設置することが少なくない。これに伴い、これらの保養施設で稼働するためにその近隣に定住する者も少なくない状況にあり、これらの者を含む地元住民のために、本件マンションから徒歩通学が可能な範囲内に小中学校も設置されている。(傍線部1)

 東銀座地所は、昭和39年9月8日、本件マンションを、神奈川県足柄下郡箱根町仙石原に、中小企業、労働組合及び個人等が福利厚生施設に使用する別荘として販売する目的で建築し、その後も、本件マンションを個人の別荘、会社の更生施設として販売していた。

 東銀座地所は、保養所としての性質を考慮し、本件マンションの居室を売却する際に、購入希望者に対して面接を実施していた。被控訴人の初代代表者であった丁原梅夫は、昭和50年頃本件マンションの504号室を購入する際に東銀座地所の面接を受け、水曜日は管理人の休暇なので休館日であることや温泉設備の利用時間について説明を受けたが、定住の可否については話題にならず、定住使用が禁止されているか否かの説明も受けなかった。

 東銀座地所は、本件マンションの各居室を売り渡す都度、買い主との間で各居室の所有権並びに共用部分、共用施設及び敷地(本件マンションの所在地である原判決別紙物件目録記載2の土地のうち、本件マンションの存する約197坪の部分)の賃借権の共有持分権を売り渡す旨の箱根仙石原マンション区分住宅売買契約(乙7)に加え、各居室、共用部分及び共用施設の維持管理を東銀座地所に委託する旨の箱根仙石原マンション区分住宅管理委託契約を締結していた。

 上記売買契約書には、売買の対象となる居室並びに共用部分、共用施設及び敷地賃借権とその持ち分を特定して記載するとともに、売買の対象外である庭園、プール及び駐車場等を買い主に無料で使用させること、本件マンションを第三者に譲渡する場合には、譲受人をして、東銀座地所との間に東銀座地所が定める管理委託契約を承継させることなどが記載されていた。また、上記管理委託契約には、東銀座地所が、住宅の管理上必要な事項に関し、居住者心得等を定め、予め買い主に通知し、またはこれを所定の場所に掲示したときは、買い主に対する禁止事項として住宅を住居以外の目的に使用してはならないことなどを列挙した条項もあるが、長期滞在を禁止するとの条項は見あたらない。

 本件マンションの設備は、40戸の居室の他、1階にソファーや机が複数配置された広いロビー、温泉設備、プールなどがある。

 控訴人乙山は、本件管理規約が設定された後である平成18年10月、本件居室から転居したが、平成19年4月から再び本件居室に居住している。
 被控訴人は、同年6月21日付けで、控訴人甲野に対し、同年4月ころから本件居室について定住とみられる状況があるとして、改善を求める書面を送付したが、控訴人甲野からの返信がなかったため、同年7月16日付けで、再度、控訴人甲野に対し、同年6月21日付けの文書を添付して送付した。

 上記のような事実関係において、裁判所はおおむね以下のとおり判示しました。

1.本件管理規約が「規約の設定、変更」(区分所有法31条1項)に該当するか否かについて

 本件管理規約につき控訴人らが無効を主張している部分は、①本件マンションの各居室を「不定期に保養施設として」使用する範囲を超えて使用することを原則として禁止する規定、②上記範囲を超える使用をする者につき通常より高額の管理費等の支払義務を定める規定、であるところ、本件規約②は、一定範囲の者にそれまでとは異なった管理費等の定めをするものであるから、「規約の設定、変更」にあたることが明らかである。また、本件管理規約①は、本件各居室につき定住を含む一定の形態の使用を原則として禁止する者であるから、それ以前においても同様にそのような形態の使用が原則として禁止されていたと認められない限り、「規約の設定、変更」に該当することとなる。

2.管理規約①の設定が「一部の区分所有者の権利の特別の影響を及ぼすべきとき」(区分所有法31条1項後段)に該当するか否かについて

 本件マンションの区分所有者が各居室の所有権並びに共用部分、共用施設及び敷地賃借権の共用部分を買い受け、敷地所有者から駐車場を無償使用する権利を与えられていること及び各居室が住居用のものであることは、前記認定のとおりであるから、控訴人甲野は、区分所有者の一人として自己又は第三者をして、本件居室をその本来の用法である住居用の者として使用収益することが出来る地位にあったと認めることができる。そして、本件管理規約の設定されるまで本件居室につき定住使用が禁止されていたと認めることができないことは前記のとおりであるから、控訴人甲野は、自己又は第三者をして本件居室を定住を含む住居用として使用収益する法的地位を有していたと認めることができる。

 しかるに、本件管理規約①は、各居室の定住を含む継続使用を原則として禁止することにより、控訴人甲野の上記法的地位を侵害するものと言わざるを得ない。そして、所有者がその所有物を本来の用法に従って使用収益することは所有権の本質的内容であるから、本件管理規約①は、控訴人甲野の本件居室所有権の本質的内容に制約を加えるものと認めることができ、この規定を定めなければ他の居室所有者の権利が著しく害されることが避けられないなどの特段の事情がない限り、控訴人甲野に受忍限度を超える不利益を与えるものと認めることができる。(傍線2)

3.本件管理規約②の設定が、「一部の区分使用者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」(区分所有法31条1項後段)に該当するか否かについて

 本件管理規約②は、定住等のため本件マンションの居室を継続的に使用する者に通常より高額の管理費等の負担を課するものであるところ、前記のとおり、ほとんどの居室が保養目的等のために一時的かつ不定期的に使用されているにすぎない本件マンションにおいては、一部の居室のみが定住等のために継続使用されると、管理費用等の負担に不均衡が生ずるおそれがあるから、本件管理規約②が定める高額の負担がこの不均衡を是正する目的に沿った合理的なものと認められる場合には、控訴人甲野もこれを受忍すべきものであり、その権利に特別の影響を及ぼすべきものには該当しないこととなる。

 そこで検討するに、建物の管理等に要する費用には、(A)その使用量・頻度にかかわらず常にほぼ一定額を要するものと、(B)その使用量・頻度に応じて増加するものとがあるから、上記の不均衡を是正するには、現に生じている費用を前者(A)と後者(B)に分類し、前者については使用量・頻度にかかわらず所有権の割合に応じて按分し、後者については使用量・頻度に応じて按分することを基本とするのが合理的である。

 しかるに、被控訴人は、本件管理規約②の管理費等の金額を定めるにあたって、どのような点を考慮してこれを算出したのかにつき、具体的な主張立証をしないし、他の類似のマンションにおける定めと比較考慮して管理費を定めた形跡もない。特に、継続的な使用に応じて増加する費用の典型的なものとして、共用部分の電気・水道及びガスの料金並びに個別のメーターが設置されていない各居室ごとの水道及びガスの料金のうちの、基本料金以外の料金部分があり、これらについては、東銀座地所が行っていたように一般の管理費用等とは別途に負担額を定めるのが合理的であり、各居室所有者の負担額は、月ごとに現に生じた上記料金部分を継続使用か否かにかかわらず、当該月における現実の使用日数に応じて按分することを基本とするのが合理的であるが、そのような方法の選択が検討された形跡もない。

 そうすると、本件管理規約②の内容は、本件マンションの居室を継続使用していることのみを理由として合理的な根拠に基づかない高額の負担を定めるものと言わざるを得ず、上記継続使用によって生ずる他の居室所有者との間の負担の不均衡を是正する目的に沿った合理的なものと認めることはできず、控訴人甲野においてその負担を受忍すべきものとは認めがたい。

 以上によると、本件管理規約①及び②の設定は、控訴人甲野の本件居室に関する区分所有権に特別の影響を及ぼすべき規約の設定に該当すると認めることができるから、区分所有法31条1項後段に基づき、控訴人甲野の同意を要するところ、控訴人甲野がこれに同意したと認めることはできないから、これらの規定は控訴人甲野及び本件居室との関係では無効であると認めることができる。

 上記のとおり、本件では、リゾートマンションにおいて区分所有権の一部を制限する規約が設けられた場合に、その規約は、これに同意しない区分所有者との間では無効とされたという事例です。

 リゾートマンションとはいえ、「区分“所有権”」を移転する以上、「その所有物件への定住は認めない」という制限を加えることは、所有権に対する過度の制約と思われますので、上記裁判例の結論は妥当なものと思われます(所有権についての判示については、上記傍線部2をご覧ください)。そのほか、上記傍線部1のように、当該土地には他に定住している人々がたくさんおり定住の環境も整っていることも、判決の結論に至る実質的な根拠となったといえるでしょう。

 本件は、通常の民事訴訟ですので、本判決の効力も当然当事者(この場合は「定住禁止という規約に反対して“現実に提訴した”者」)にしか及ばないわけですが、この判決の内容を知って「やっぱり定住禁止規約に反対したい」という人々にとっては、この最高裁判所の判決は朗報というところかもしれません。

 開発側としては、「定住を認めない」のであれば、リゾートマンションではなくリゾートホテルとして当該土地を開発すればよかったようにも思いますが、ホテルでは後にランニングコストがかかるし、当初の売却益も見込めないというところで、リゾートマンションとして売り出したものかとも思われます。ただ、所有権という権利は絶対的な利用処分の権能を備えた権利であるというのが講学上一般的な理解ですので、それを制限してしまうというのはやや行き過ぎでした。
 スキームをくむ際には、既存の法概念等との整合性には当然気をつかうところかとは思いますが、所有権に加える制限の可能性を検討する上で、本判決も大いに参考になろうかと思います。