1 元カネボウ代表取締役のご講演
先日、元カネボウ代表取締役の知識さんという人の講演を聴いてきました。
私がこの講演を聴いた経緯は、今、私が通っているグロービスという経営大学院の岡島先生のお誘いで「岡島組」という勉強会に所属するようになったことがきっかけでした。
私も岡島組の組員(?)になり、この講演は岡島組の主催で行われたものです。
ご講演をされた知識さんという人は、もともとは、カネボウの子会社にいた人なんですが、カネボウが事業再生することになった際、40代で代表取締役に抜擢された人です。
何万人も従業員がいる大企業の代表取締役に抜擢されたなんていうと羨ましくなる話のように聴こえますが、カネボウの一番大変なときに社長になられたわけですから、知識さんがどれだけご苦労されたことか…。現在はご自分で会社を作って事業をされているそうです。
さて、ご講演が終わって、何人かのグロービスの受講生から質問が出ました。それらの質問に対する回答の中に興味深いものがありました。
それは何かというと、経営の現場には、あえて意思決定しないという選択があるというお話でした。
2 あえて意思決定をしない
ビジネス・スクールで学んでいる人たちにとっては、意思決定というものは、必ずするものだという前提があるように思います。経営とは、意思決定そのものだと言っても過言ではないでしょう。
クラスで使われるケース・スタディも、意思決定することが基本的に求められています。
そのようなグロービスの受講生さんにとっては、おそらく「意思決定しない」という選択は、かなり意外だったと思います。
でも、法律事務所を経営しており、一応経営者のはしくれである私にとっては、決して意外なことではありませんでした。
確かに、経営の現場では、あえて意思決定をしないという選択がいくらでもあります。経営者の仕事は、意思決定にあるということは間違いありませんが、あえて今意思決定せずに先送りした方が良い経営課題もあるからです。常に今決めることが良いとは限りません。
先送りした方が良い課題なのに、常に今決定しなければならないとすると、それはそれで不合理だと言えます。
しかし、です。それでも私は「意思決定しないという選択」の危険性を強調しておきたいと思います。
実は、意思決定しないという選択を最も得意とする業界が日本にあります。何だと思います?そうです、政界です。政治の世界では、いつまでも議論ばかりしていて、なかなか意思決定ができません。
このときの政治家の常とう文句は、「議論が尽くされていない」というセリフです。
経営の世界でも同じです。意思決定を先延ばしする口実なんて、その気になれば見つかります。そうすると、「今決めなくてもよい」という口実のために、意思決定の回避がまかり通るようになってしまいます。これは大変危険です。特に、会社が危機的状況にあり、意思決定のスピードが求められる場合は特にそうだと思います。
3 ソフトバンクの「42時間ルール」
ソフトバンクには、42時間以内に意思決定しなければならないというルールがあります。このような意思決定をルール化して、意思決定のスピードをあげているわけです。
早く決めなければならないことと、ゆっくり検討してから決めればよいことがあるということになると、どうしても後者に流されてしまいます。早く決めなければならないことでも、「ゆっくり検討すればいいじゃないか」という言い訳がまかり通り、意思決定のスピードが著しく遅くなります。
そこで、ソフトバンクでは、「42時間」という一律のルールを適用して意思決定しているわけです。孫さんらしい気がします。
ちなみに、先日、グロービスの堀さんの講演を聴いたとき、グロービスには「24時間ルール」というのがあるというお話でした。ソフトバンクよりも短いですよ。
堀さんのお話では、部下から提案がなされ、決裁者である上司が24時間以内に決済を行わないと、「承認したものとみなされる」そうです。これは決裁者にとっては、すごいプレッシャーですよね。意思決定から逃げることができません。決済しないことの言い訳もできません。
このようなルールが確立している会社では、「意思決定しないという選択」はなくなるのではないでしょうか…。
私はこちらのほうが優れていると思います。
確かに、論理的には、今決めなくてもよいことはありますので、常に何でも迅速に意思決定しなければならないというルールは、一見すると不合理です。
しかし、意思決定しないことを許してしまうと、意思決定しないことを正当化する口実を探すということがまかり通ってしまいます。
そうなると、緊急性のある課題まで、「緊急ではない」ということになり、後手後手に回りかねない危険があります。
むしろ、どんなことでも、「迅速に意思決定する」というルールのほうがはるかに実践的で、競争優位に立てると思います。