1 事案の概要

 昨年の12月に、管理業者・家主に対し、慰謝料等の支払を命じた判例が出ているので紹介します(姫路簡裁平成21年12月22日判決)。

 事案の概要は、家賃滞納を理由に家主側が借り主に対して、建物明渡請求訴訟を起こし、借り主に建物明け渡しを命じる判決がすでに出ていました。
 ところが、家主側は、明け渡しの強制執行を行うことなく、借り主はその後も居住し続け、家賃相当額(賃貸借契約は解除されているので、厳密には家賃ではありません)を支払続けていたようです。

 ところが、この家賃相当額の支払いも滞り、その額が約35万円(月額賃料が5万8000円なので、約6ヶ月相当の滞納になります)となったため、管理会社が強硬手段に訴えました。
 具体的には、鍵穴にカバーをかけ、部屋の中に入れないようにしてしまったのです。その結果、借り主は3人間、部屋に立ち入ることができなかったということです。
 その後、再度鍵穴にカバーがかけられ、今度は、20日間の長期に渡って、借り主は、所有するクルマの車内で寝起きするという生活を余儀なくされたとか。

 この裁判では、管理業者のかかる行為が不法行為に該当するとされ、慰謝料36万5000円・代理人費用4万円、合計40万5000円の支払いを命じる判決が出されましたが、管理業者に物件管理を委託している家主も訴えられており、同額の支払い命令が出されている点に注目してください。この判決では、家主の使用者責任(民法715条)が肯定されました。

 家主側の反論は、管理業者と委託契約(委任契約)を結び、物件管理をまかせていたわけだから、家主と管理業者との間に指揮監督関係はなく、家主まで責任を負うのはおかしいというものです。
 この家主側の反論に対し、裁判所は、家主側が管理業者に取立行為を個別に依頼しているので指揮監督関係は残ったいると論じ、家主側の反論を退けております。

2 この裁判例からの学び

 この事件でいつくか指摘しておきたいことがあります。

 第1に、建物明渡訴訟で家主側が勝訴し債務名義を得ていたのだから、強制執行しておくべきではなかったか、という点です。債務名義を得ている以上、その後に借り主が支払ってくるお金は、これまでの滞納家賃への充当と契約解除後は賃料相当損害金ですので、これらの金員を受け取ったからといって、賃貸借契約が復活するわけではないと思うのです。したがって、紛争が再発することは予想できたような気がします。

 第2に、管理業者に委託している家主も責任を問われる可能性がある点です。この事案で、家主と管理業者との間の指揮監督関係は残っていると判断されていますが、管理業者が鍵穴にカバーをかけたことについて、家主側にどこまで認識があったのかはよくわかりません。「指揮監督関係が残っている」という判例の言い回しからして、家主の具体的指示で管理業者が鍵穴をふさいだわけではないんだと思います。そうだとすると、取立方法に関して具体的指示をださず管理業者に任せていた場合であっても、家主側に責任が及んできてしまうということをこの判例は示唆しています。

 ちなみに、管理会社も家主もこの判決を不服として控訴しているそうです。