前回(平成22年3月25日、家永執筆分)は、転貸借(サブリース)関係において、賃貸人(オーナー)と賃借人(デベロッパー)の賃貸借契約が、両者の「合意」で解除された場合の法律関係について説明しました。

 今回は、前回と異なり、賃貸借契約が賃借人の債務不履行等を原因として法定解除された場合の判例を紹介いたします。

【最判昭和36年12月21日】

(事案の概要)

 賃貸人ら(X)所有の土地につき、Xは同土地を賃借人(A)へ賃貸し、Aは同土地を転借人(B)に転貸した。そして、Bが同土地上に建物を所有し、Bは同建物を建物賃借人(Y)に賃貸している。

 Xは、Aの債務不履行を理由として、Aに対する債務名義に基づき、建物収去および建物収去費用支払の命令を得たところ、Yがその執行の排除を求める本訴を提起したのに対し、XがYに対し、建物を収去するためにその明渡を求める反訴を提起した事案

(判決の内容)

 「原判決が「およそ賃借人がその債務の不履行により賃貸人から賃貸借契約を解除されたときは、賃貸借契約の終了と同時に転貸借契約も、その履行不能により当然終了するものと解するを相当とする」と判示」(略)「転貸借の終了するに先だち賃貸借が終了したときは爾後転貸借は当然にその効力を失うことはないが、これをもつて賃貸人に対抗し得ないこととなるものであつて、賃貸人より転貸人に対し返還請求があれば転貸人はこれを拒否すべき理由なく、これに応じなければならないのであるから、その結果転貸人は、転貸人としての義務を履行することが不能となり、その結果として転貸借は終了に帰するものである」

 前回の判例によれば、オーナーとデベロッパーが契約を合意解除しても、居住中の転借人に対して明渡しを求めることは、原則としてできないということでした。
 しかし、今回紹介の判例によれば、オーナーとデベロッパーが賃貸借契約を「債務不履行」に基づき「法定」解除する場合には、逆に、オーナーは転借人に対して明渡しを求めることができるという結論となっています。
 したがって、賃貸借契約を法定解除した場合、オーナーは転借人から建物を明渡してもらうことが可能となります。

 このような結論からすると、賃貸人と賃借人が結託して、あえて合意解除をせずに、賃借人がわざと賃料不払いをするなどして、債務不履行に基づき法定解除をすれば、転借人に明渡しを請求できるかのように思われます。
 しかし、このような場合には、債務不履行を装った合意解除であるとして、明渡しが認められない可能性があります。合意解除の場合に明渡しが認められなかった理由は、転借人を故意に追い出そうとすることを防ぐためですから、わざと債務不履行をすることによって転借人を故意に追い出そうとすることはできないと考えられるからです。

 転貸借が行われている場合の賃貸借契約の解除後の法律関係は、合意解除によるのか、債務不履行等の法定解除によるのかによって、一定の見通しは立ちますが、事案によっては異なる結論となりえます。

 ただ、転借人に明渡しを求める場合に気をつけるべきポイントの1つは、解除によって、賃貸人と賃借人が、転借人を故意に追い出そうとしていると認定されるかどうかと言えそうです。