初めまして。弁護士の家永 勲と申します。
近年では、賃貸物件において、サブリースを利用していることもあると思います。サブリースは法律的には、転貸借の一つの態様ということになります。
転貸借関係においては、通常の賃貸借とは異なり、賃貸人(不動産所有者、オーナー)、賃借人(転貸人、不動産管理会社等のデベロッパー)及び転借人の3名が登場するため、その規律も多少複雑になります。
今回は、賃貸人(オーナー)と賃借人(デベロッパー)の間の賃貸借契約が合意解除された場合の賃貸人と転借人の関係についての判例を紹介したいと思います。
【大判昭和9年3月7日】
(事案の概要)
X(賃貸人)が所有する物件(以下「本件物件」という。)をY(賃借人)に賃貸し、Yが、Xの承諾を得て、本件物件をZ(転借人)に対して転貸していた。ところが、XとYがXY間の賃貸借契約を解除して、XがZに対して明渡し及び未払い賃料を求めたという事案。
(判決の内容)
「当事者ノ合意ニ依リ解約為シ得ヘキコトハ契約ノ自由ヨリシテ疑ナキ所ナルモ又ソハ自ラ一定ノ限界アリ他人ノ権利ヲ害シ信義ノ原則ニ反スルコトヲ得サルモノト信ス」(略)「被上告人ト通謀シテ上告人ノ正権原ニ基ク占有権ヲ消滅セシメントスル故意ニ出ツルモノニシテ斯ル解約ハ法律上信義ノ原則ニ反スルモノト謂ハサルヘカラス」(略)「XY間ノ解約ハ信義ノ原則ニ反シ法律ノ精神ニモトルモノニシテ直チニZニ其ノ効力ヲ及ホササルモノト謂フヘシ」(略)「Xカ其ノ所有物ヲYニ賃貸シYカXノ承諾ヲ得テ之ヲZニ転貸シタルトキハYハ其ノ転貸借契約ノ内容ニ従ヒテ右物件ノ使用収益ヲ為ス権利ヲ有シ其ノ使用収益ハXニ於テモ之ヲ認容セサルヘカラサル」
当時の判決文はカタカナで読みにくいですが、この判決が述べることは、以下のように要約できると思います。
1 XとYが賃貸借契約を合意により解除することは自由だが、転借人の権利を害する場合には制限される場合がある。
2 XとYが合意解除するということはZを故意に追い出そうとしているものと考えられ、信義則に反する。
3 したがって、XY間の賃貸借契約が合意解除されたことをZに主張して、明渡しを求めることはできない。
理由としては、そもそも、賃貸人は、転貸することに承諾したということは、転借人が現れることを前提としていたはずであるから、転借人が賃貸物件を使用収益することを認容しなければならない、ということをあげています。
この判例によれば、オーナーとデベロッパーが契約を合意解除しても、居住中の転借人に対して明渡しを求めることは、原則としてできないということになります。
オーナーとデベロッパーが賃貸借契約を合意解除する場合には、オーナーが転借人を引き継ぐことが多いかと思いますので、問題は生じにくいと思います。
しかし、合意解除後に転借人から建物を明渡してもらうことを計画している場合には、単に合意解除するだけでは目的を果たせないということになりますので、あらかじめ転借人の承認を得ておくといった工夫が必要となり、注意が必要です。