1 シニア住宅市場
みなさん、「高優賃」というのをご存じですか?
高優賃とは、高齢者向け優良賃貸住宅のことです。今回は、この高優賃をめぐるシニア住宅市場を分析してみたいと思います。
日本が高齢化社会を迎えつつあることはご承知のとおりです。日本が人口減少時代を迎える一方で、高齢者人口は増加するわけですから、いわゆる「シニア世代」をターゲットにしたビジネスが今後伸びていくであろうことは誰でも容易に想像できます。
そのようなシニア対象のビジネスが不動産業界にも押し寄せて登場したのが高優賃だと私は理解しています。
高齢者にとって優良な賃貸住宅ってどのような住宅なのでしょうか。
若い人たちと違った高齢者の事情は、やっぱり健康問題だと思います。単に階段の上り下りがきついとか、マンションまでの坂道がつらいなどといったケースにとどまらず、介護が必要な高齢者も少なくないと思います。病気がちな人にとってはすぐ近所に病院があるというのも便利だと思います。
そのような高齢者のニーズに応えたのが、高優賃だと言えるでしょうね。
2 バリア・フリーの高優賃
そこで、まず登場したのがいわゆる「特定施設高優賃」です。
特定施設という言葉からも推測できると思いますが、簡単に言ってしまえば、「介護サービス」がついている住宅です。介護という利便性と整合するような設備をそなえてある必要がありますから、介護に適した大きめのお風呂場でなければなりません。そのほかに、段差のない床、手すり、スロープがついているなど、高齢者の生活に必要な設備(バリア・フリー)もそなえているそうです。加えて、高齢者ですから、突然、発作に見舞われるなどという緊急事態も想定しておかなければなりません。そこで、緊急時に通報できるような装置も設置されていたり、緊急時の24時間対応サービスも付加されているとか…。さらに、入居者の安否を定期的に確認するというサービスもあるそうです。
ここまでしてもらえれば、高齢者も安心して暮らせそうですよね。
でも、ここまで設備やサービスが充実していれば、家賃はその分高くならざるを得ません。また、浴槽が大きいとその分水道代も通常の場合よりもかかるそうです。そうすると、このような高優賃を利用できるのは、おそらく経済的に余裕がある一部の高齢者に限られるのではないかと思われます。
もちろん、これは行政も支援している事業なので、家賃補助もあるそうです。
例えば、東京都の場合だと、入居者の収入に応じて最大月額2万5000円が家賃から減額されることになるそうです。
しかし、そのような家賃補助制度があったとしても、高齢者の多くにとっては負担だったようで、必ずしも入居率は高くなかったようです。
3 低額家賃の高優賃
そこで、高優賃の第2フェーズとして登場したのが低額家賃の高優賃です。
先駆けてそれを導入した岡田不動産は、低額家賃の高齢者ニーズを捉え、過剰な設備を排除し、家賃を最小限に抑えたそうです。同社は、そのような高優賃を273戸管理しているそうなのですが、その入居率は98%にのぼるそうです(全国賃貸住宅新聞2010年2・1号9面)。
同社によると、高優賃に入居する高齢者の多くは、介護認定すら受けていないようなんです。であれば、過剰な介護設備はそのような高齢者にとっては無駄ですよね。そんなに設備は充実していなくてもいいから、その分家賃を安くしてくれっていうニーズがあるのは当然だと思います。
ちなみに、同社が提供している高優賃の場合、単身用で月額家賃約7万円からだそうです。別途管理費が1万5000円かかるそうですが、この高優賃にも家賃補助は出るようで、入居者は2万5600円の家賃補助を受けられるそうです。 そうすると、最終的に入居者が負担するのは、5万9400円ということになります。
なかなか目の付け所がよいと思いますが、設備の充実性をある程度犠牲にして低額家賃を実現しているわけですから、今後、問題が発生することも予想されます。
第1に、介護認定を受けていない高齢者の全員が本当に介護を必要としていないとみなして大丈夫なのか。
第2に、入居時点では介護が必要なくても、その後介護が必要になった場合はどうするのか。
これらの問題をめぐって今後、新しい問題が浮上してくる可能性は十分にあると思います。弁護士的に言わせると、何らかのコンプライアンス対策は講じておいたほうがいいかもしれません。