1 トランス・デジタルという会社

 先日、新聞などで、トランス・デジタルの旧経営陣と金融ブローカーが逮捕されたという報道がありました。

 トランス・デジタルは情報通信関連の会社で、2004年にジャスダックに上場しています。
 2008年7月から8月の間に約28億円の資金調達をしましたが、その直後に2度の不渡りを出し事実上倒産。
 同年9月1日に民事再生の申立をしています(ということは、約28億円の資金調達をしている最中に民事再生の申立準備をしていた可能性もあります)。
 そして、同年9月30日、ジャスダックは、同社を上場廃止としております。

2 民事再生法違反

 では、どうして旧経営陣らが逮捕されるなどという事態になってしまったのでしょうか。

 報道によると、旧経営陣らと金融ブローカーらが結託して、民事再生の申立の直前の2008年8月末頃、同社の資産を食品販売会社に担保として譲渡したという疑いが持たれているということでした。
 譲渡された資産は、短期売掛金が中心で簿価で約1億数千万円に及ぶそうです。

 民事再生手続きをこれから始めようというのに、一部の債権者のために会社の重要な資産を譲渡してしまうと、他の債権者の利益を害することになります。
 そこで、民事再生法256条は、特定の債権者に対する担保提供などの行為を禁止し、違反者は、5年以下の懲役・500万円以下の罰金に処せられることになっています。

 この部分だけ読むと、「けしからん」、「逮捕は当然だ」と思われるでしょうが、実は、ちょっとした動揺が実務に走っています。
 というのは、今回、トランス・デジタルの旧経営陣らが行ったと報道されている行為それ自体は、大変問題のある行為なのですが、倒産事件では珍しくありません。
 ところが、このような行為に対しては、これまであまり刑事事件として扱われてこなかったという背景があります。2010年2月16日付日経新聞(朝刊)39面でもコメントしてありましたが、「特定の債権者に担保提供する行為が刑事責任に問われるのは珍しい」のです。

 売掛金を特定の債権者に担保提供の趣旨で譲渡するなんて、正直言って必ずばれると思います。しかも、民事再生申立の直前にやってるのであれば、他の債権者との関係で詐害性は疑う余地がありません。
 そんなことを平気でやっているということは、おそらく旧経営陣や金融ブローカーらの間で、「これは犯罪である」という認識が欠けていたのだと思います。

3 この事件の教訓

 この事件に端を発して、今後、倒産事件におけるこの種の行為について、刑事事件になるケースが増えるのではないでしょうか。
 民事再生等を検討している会社の関係者にとっては、重要なメッセージだと思います。

 また、もうひと重要な教訓は、世の中に法律的には犯罪とされているけれども、実務の運用では刑事責任を追及していないというものがけっこうあります。特に、倒産法関連や特許権侵害では、罰則があるのに実務では民事で処理されています。
 その結果、なんとなくこれは犯罪ではないという間違った常識が実務界で形成されていく。これが恐いんですね。
 なので、犯罪だという認識なくやっていたら、突然逮捕です。そういえば、ライブドアのケースもこれに近い気がします。

 実務の運用をあまり鵜呑みにせず、顧問弁護士にしっかり法律調査をさせて、「犯罪」領域に入る行動については慎重になることが必要です。