皆様、こんにちは。
1 イントロ
日常生活において電車の中吊り広告やインターネットなどで様々なキャッチフレーズを見かけると思います。
中にはうまいと思わせる作品などもあり、作った方の知恵やひらめきを感じることがあります。
キャッチフレーズも創作物の一つといえるかと思いますが、法律上はどの様に整理されるのか、裁判例をご紹介しながらお話したいと思います。
2 著作物の要件
(1) 著作物の保護は著作権法に定められております。
同法の保護の対象となるものを「著作物」と名付けられています。
「著作物」は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(同法第2条1項1号)とされています。「思想又は感情」を「創作的に表現」する必要があるので、自分が思いついたことを表現しても必ずしも「創作物」にあたるとは限りません。
(2) キャッチフレーズとの関係でいえば、「創作的」か否かが問題となり得ます。
著作権法が保護の対象である「著作物」に「創作的」であることを求めているのは、模倣品やありふれた物まで一つ一つを保護することになるとキリが無くなってしまうからです。個性があるか否か、オリジナリティがあるか否か、といった部分は感覚的な要素もあるのでなかなか判断しづらそうなところです。
3 裁判例の紹介
(1) 例えば、ネットニュース等における小見出しは思想や感情ではなく、「○○が~をした」という事実の要約に終始するものであるため、表現方法に多少の工夫を加えたとしても創作性を認めることは難しいです(ネットニュース見出しの著作物性を認めなかった裁判例として、知財高裁平成17年10月6日判決)。
他方で、俳句は5・7・5に定型化されている表現手段ですが、作った方の思想や感情が込められていることから個性が識別できるので、ありふれた言葉を用いていたとしても「著作物」を認められる可能性は高いようです。
(2) それでは、キャッチフレーズはどうでしょうか。
原告が「ボク安心 ママの膝(ひざ)よりチャイルドシート」という交通標語を作ったところ、後から被告が「ママの胸よりチャイルドシート」という類似的な表現を作られたので、損害賠償請求を行ったという裁判例があります(東京地裁平成13年5月30日判決)。
裁判所は「ボク安心 ママの膝(ひざ)よりチャイルドシート」という標語について「3句構成からなる5・7・5調(正確な字数は6字、7字、8字)調を用いて,リズミカルに表現されていること,「ボク安心」という語が冒頭に配置され,幼児の視点から見て安心できるとの印象,雰囲気が表現されていること,「ボク」や「ママ」という語が,対句的に用いられ,家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば,筆者の個性が十分に発揮されたものということができる。」として「著作物」に該当するとしています。
しかし、類似の標語が作られた点については、「原告スローガンにおいては「ボク安心」という語句が加わっていることにより,子供の視点から見た安心感や車内のほのぼのとした情景が表現されているという特徴があるのに対し,被告スローガンにおいては,そのような特徴を備えていないこと,「ママの膝」と「ママの胸」とでは与えるイメージ(子供の年齢、抱きかかえた姿勢等)に相違があること,原告スローガンにおいては,3句構成からなる5・7・5調が用いられ,全体として,リズミカル,かつ,ゆったりした印象を与えるのに対し,被告スローガンにおいては,2句構成からなる7・5調が用いられ,極めて簡潔で,やや事務的な印象を与えること等から」それぞれ特徴的な所に違いが出ているので「実質的に同一のものということはできない。」として損害賠償請求を認めないという判断を下しています。
自分たちが懸命に考え出したアイディアを後から使われることは腹立たしいことだと思います。
しかし、仮に自分達で作ったキャッチフレーズが「著作物」に該当して保護の対象になりうるとしても、現実に損害賠償請求等が認められるためには、キャッチフレーズから読者が受ける印象を理論的に細かく分析していく必要があるようです。学校の国語の授業もおろそかにはできませんね。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。