ハーグ条約とは、ハーグ国際私法会議で締結された条約の総称です。今回は、その「ハーグ条約」の中でも、日本はまだ正式に批准していない、国際的な子の奪取の民事面に関する条約(国家間の不法な児童連れ去りを防止することを目的として、1980年10月25日に署名され、1983年12月1日に発効した多国間条約)について、その批准が日本でも本格的に検討されるようになったという点をご紹介したいと思います。

 国際結婚した夫婦が後に不和、あるいは離婚となった場合、一方の親が他方の親に無断で児童を故国などの国外に連れ去ることがあり、その場合連れ去りが児童の定住国では不法行為であっても、国内法・捜査権が国外に及ばないことから、連れ去られた側が事実上泣き寝入りを強いられる場合があります。「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」は、このような場合に、拉致が起こった時点での児童の定住国への帰還を義務づけることを目的として作られた条約です。

 つまり、この条約によれば、たとえ国際結婚が破綻して、それまで定住していた国(「定住国」)から日本人配偶者が子どもを連れて帰ってきても、それが定住国の法律において不法行為を形成する場合には、その子どもは定住国(の配偶者の元)へ帰還しなければならないということになります。

 上記の内容は、当然に思えるでしょうか?実は、上記の内容のハーグ条約に、日本は長年批准してきませんでした。これは、どうしてでしょうか。

 子どものいる夫婦が離婚する場合、日本では、父親か母親のいずれかが単独で親権を有するものとされており(単独親権主義)、なおかつ、特に子どもが乳幼児などの場合、養育に適するのは母親であることがほとんどであるとして、日本の裁判所で親権が争われた場合には、母親のほうに親権が認められることが多いです。

 このように、日本では、特に子どもが学齢期以下の場合、母親の側で育つ方が子どものためになるという考え方が広く受け入れられており、これと矛盾する内容の上記ハーグ条約(「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」)は、批准されることがありませんでした。

 したがって、報告されているだけでも、特に日本人女性が、アメリカ在住の配偶者の元から子どもを連れ去る事例が、2009年11月の1ヶ月だけでも、79件(関係する子どもは100人以上)あるとのことです。

 このような状況を改善するため、12月初旬、日本においても、ハーグ条約(「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」)の批准を検討する、と、岡田外務大臣が発言しました。アメリカや欧州の各国から様々な意見が出ているので、難しい問題ではあるができるだけ早期に対処したい、という意向のようです。

 国際的な協調という意味では、ハーグ条約の上記部分への批准も前向きに考えるべきということになりましょう。ただし、上記が批准されることになると、場合によっては、子どもを連れ去った日本人配偶者が民事・刑事の責任を問われる事態にもなりかねません。

 ハーグ条約(「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」)は、親権についての公正な話し合いの場を保証するものではないので、これに加入するだけでは、トラブルの発生を防止することはむずかしいとの指摘もあるようです。

 ハーグ条約への加入とともに、親権や面接交渉権についての適切な話し合い・実施が各事件に応じて確実・的確に行われるよう、私たち法曹も努力していきたいと考えています。これらの問題に直面し、自分自身で解決ができない、と感じたときは、遠慮なく弁護士の依頼をなさってください。