1 はじめに

今回は、債権に関し、基本的事項を確認し、それを踏まえた上で、どのような回収方法を講じるべきであるか等についてお話ししていきます。債権回収は、債権がそもそもいかなる特質を持っているのかを理解しておくことが、様々な場面に遭遇する際、意外に重要となってきます。

2 債権の意義

債権とは、特定人(債権者)が別の特定人(債務者)に対して、一定の財産上の行為(給付)を請求することを内容とする権利をいいます。「行為」請求権であることに注意しなければなりません。つまり、債権は、直接、お金や物に対して効力を及ぼせるわけではなく、それらを渡すという人の「行為」に対する権利にすぎないのです。

3 債権の相対性

上述した債権の意義をみればわかるように、債権は、特定人に対する権利ですから、債務者に対してしか権利を主張できません。全ての人に対して主張できる物権とは、この点で大きく異なります。債権は相対権、物権は絶対権というわけです。

物権は、対抗力を備えれば、誰に対しても主張できるため、時効取得される場合を除き、他から侵害されるおそれはありません。

しかし、債権は、債務者に対してしか主張できない権利であるため、その債務者に何らかの異常が発生すれば、たちまち権利がないに等しい状態に陥る可能性があります。他の誰にも主張できない弱い権利だからです。

そこで、債権を強化する方法として、1つには、債務者以外の人にも同じように請求できるようにする方法が考えられます。これが人的担保と呼ばれるものです。お金を借す際、保証人を付けるというのがそれです。保証には、単純な保証の他にも、連帯保証、信用保証、身元保証、保証連帯等があります。簡単に言えば、債権を強化しておきたければ、できるだけ多くの保証人を付けて、各人に対し債権全額を請求できるように連帯化しておくことが肝要です。

4 債権の非排他性

物権には、一物一権主義というのがあり、一つの物に同一内容の物権が存在することは許されません。したがって、物権は排他性を有するといえます。

これに対し、債権はどうかというと、人の行為は意思の自由を前提とするので、人が一定の行為をしようとする意思を特定人が支配することはできません。だから、特定人に対する同一内容の債権の併存も認められます。その意味で、債権は排他性がありません。

しかも、同一内容の債権が併存する場合、それら債権の成立が早かろうが遅かろう が、優劣はありません(債権者平等の原則)。

となると、早く債権を得た者としても、オチオチしておられず、後から成立するかもしれない債権に対して、優先性を主張しておきたいと考えるのが普通でしょう。これを達成するのが、物的担保と呼ばれるものです。債権を物的担保を付けて強化しておくことで、後から同一の債務者に対する債権が成立しても、その債権者に対して優先的に弁済を受けることを主張できるようになるわけです。物的担保には、抵当権、質権、仮登記担保、譲渡担保、売渡担保(買戻し、再売買の予約)などがあります。

5 債権の非公知性

物権であれば、登記、登録あるいは占有などにより、周囲から誰が物権を持っているかにつき知らしめることができます。

他方、債権というものは、その存在を周囲から見ることができません。特定人(債権者)が別の特定人(債務者)に対して、給付請求権があるとしても、その債権者がそう言っているだけだとしたら、債務者に債権の存在を否定されれば終わりです。

だから、まず、この眼に見えない点を克服しておかねばなりません。それは、債権者・債務者名、発生原因、金額、履行期等債権の内容を紙に書いておくことです。

次に、債権が書面化されて眼に見える形となっても、自分にだけわかるというだけでは足りません。すなわち債務者に対してしか請求できない権利ゆえに、唯一の頼みの綱である債務者にも認めてもらえる形にしておかなければならないのです。そのためには、債務者の署名なり、サインなり、この内容で異論はないよという債務者の意思も形にとっておくことです。

6 債権の公証化

上記のように、債務者の署名のある債権書面があっても、債務者が気が変わったとか、そんな署名をした覚えがないなどと、言い出したら、かかる書面だけでは、どうすることもできません。

そこで、今度は、そんな場合に備えて、債務者がどんな態度をとろうが有無を言わさず、給付させられる力を付けておくことが重要となってきます。それは、「債務名義」を得ることです。債務名義とは、債権の存在を公証し、強制執行の認められる文書をいいます。債務名義を得る最も一般的方法は、裁判所に訴えて、債権に関する確定判決を得ることです。他にも、仮執行宣言付判決や和解調書・調停調書への記載、公正証書の作成なども債務名義となります。

これら債務名義があれば、債権者は、債務者がうんと言わない場合、裁判所の力を借りて債権の内容を強制的に実現することができるのです。

7 まとめ

以上の事柄は、債権回収において最低限押さえておくべき知識となります。