1 2009年度の弁護士ランキング

 今年も日経新聞の弁護士ランキングが発表されました(2009年12月24日)。
 クリスマス・イヴに発表なんて洒落てますね。

 企業法務部門では今年もTMIの葉玉先生が1位でした。事業再生・倒産法部門では森・浜田松本の藤原先生、労働部門では安西先生が首位を飾りました。

 葉玉先生は、今や我々の業界では有名人です。検察官のご出身で、企業法務畑の弁護士としてのキャリアはそう長くはないはずなのに、ご立派です。4位にランキングした久保利先生(65歳)のほうが企業法務の経験としてはずっとベテランなのに、44歳という若さで企業法務部門のトップですから。
 事業再生・倒産法部門は、ちょっとバイアスがかかっている感じがします。事業再生ADRにかかわっている先生のお名前がランキングされやすいのでは。また、事業再生の分野はまだ新しいので、例えばこの道30年のベテランの先生なんていないと思います。5位にランキングされている多比羅先生(66歳)は、わかりますよ。この先生は昔から倒産法の分野では有名な先生でした。
 労働法部門は、安西先生ですか。この先生は、私が司法修習生の時の研修所の教官でした。私が弁護士になる前から労働法の分野では有名な人でしたから、まあそうかなという感じはします。
 でも、この先生は使用者側(会社側)。労働法部門ではアンケートの対象に労働組合も入っていますので、労働者側の弁護士も何人かランキングしていますが、アンケート対象の一覧を見ると、ほとんどが企業。労働組合はちょっとしかないんです。これでは、使用者側の弁護士に有利な数字が出てきます。計算方法として、母数である対象企業または労働組合の何%の支持を得たかという観点から修正を加えた数字で計算した方がよかったのでは。

2 弁護士ランキングに対する疑問

? なぜ同業者の投票数をカウントするのか

 日経の弁護士ランキングは、同業者である弁護士の投票数とクライアントである企業の投票数の合計で決定されているようです。
 弁護士の投票数を加えているのは、法律の専門家である弁護士の意見として尊重しているからだと思います。素人の意見ではなく、ある意味、”プロの意見”として重みがあるのかもしれません。
 しかし、私は、弁護士の意見ほど当てにならないものはないと見ています。弁護士は、お互いにほかの弁護士の仕事ぶりをあまり知りません。特に東京ではそうです。裁判で同じ弁護士と当たることがまずない。だから、他の弁護士の仕事ぶりはよくわからないというのが正直なところです。ましてや、訴訟畑の弁護士ではなく、コンプライアンス系の弁護士だと滅多に裁判所にも行きませんから、対戦する機会すらありません。私は、クライアントである企業の意見だけで十分ではないかと思います。特に、この日経ランキングでは調査対象企業が大企業なので弁護士に対する目は肥えています。大事なことは「顧客満足」ですから、来年からは企業だけから情報収集したほうがいいと思います。
 ちなみに、企業法務部門でトップの葉玉先生は弁護士18票、企業19票なのである意味納得できるのですが、3位にランキングされたアンダーソン毛利・友常の小舘先生は、弁護士の投票が22票でz実は葉玉先生を越えているんです。ところが、お客様である企業の投票はたった1票なんです。これって、どう解釈したらいいんですか。ついでに言うと、4位の久保利先生は企業から6票、5位の国広先生は7票、6位の松井先生は10票です。10位の鳥飼先生だって7票です。たった1票で3位というのはいかがでしょうか。

? なぜ大企業ばかりなのか

 この弁護士ランキングには、調査対象になった企業名も掲載されているのですが、日本を代表する大企業が並んでいます。
 しかし、だからといって上場企業の全てではありません。同紙に掲載されている企業の数は、ざっと見ても150社程度です。たぶん200社はないでしょう。上場企業の数が数千社であることを考えると、その10%にも満たない。そうすると、大企業の中の大企業だけが回答者だということになります。これは何を意味するかというと、フィーの高い弁護士を利用できる企業だけが回答しているわけだから、フィーの高い弁護士がランキングされやすい傾向になるのではないかという疑問がわいてしまうのです(すみません。ランキングされている先生方は有名な先生が多いので、フィーが高そうなイメージがあります)。
 また、そもそも論として、一部の大企業、というかマンモス企業の投票だけで正しい評価ができるのかという疑問です。日本経済を支えているのは中小企業だと皆さんおっしやるのに、中小企業の意見が全く反映されていないのは問題があるのでは。
 さらに付け加えると、大企業の目が如何に肥えているとは言え、弁護士に関する情報量が圧倒的に不足している点です。同紙に掲載されている大企業と言えども、「今までに数え切れないくらい顧問弁護士を変え、数百人近い弁護士を見てきた。だから、今使っている弁護士は選りすぐりの弁護士だよ」と答えられる企業は皆無だと思います。つまり、自分たちが知っているごく少数の弁護士の中から選んでいるわけで、十分な比較ができていないんですよ。けっこう、弁護士に関する情報って、ブラック・ボックスなんですね。私が個人的に知っていて”すごい”と思っている先生の名前は1人もありませんでした。それもそのはずで、大企業の中に情報としてないんでしょうね。

? なぜ、法律事務所ではなく、弁護士なのか

 最後に、弁護士ランキングの世界では、なぜか注目されるのは弁護士であって法律事務所ではありませんね。
 まあ、腕の良い弁護士というのはおりますが、「良い法律事務所」というのもあるはずです。どんなに敏腕な弁護士であっても、個人でできることには限界があります。ましてや、大企業からのオファーがあった案件であれば大きなものばかりだと思うので、個人の力というよりはチーム力のほうが大事ではないでしょうか。個人でできる範囲で顧客満足に努力している弁護士よりも、組織的に顧客満足に取り組んでいる法律事務所のほうが、大きな力を発揮できるはずです。
 ところがなぜか、クローズアップされるのはいつも「弁護士」なんですね。
 これは、裏を返せば、ブランド構築に成功した法律事務所がないことも意味しています。

3 弁護士の格付け機関が必要

 日経新聞の弁護士ランキングが発展して、将来、弁護士の格付け機関ができたらいいのになあと思います。ついでに、弁護士だけではなく、法律事務所ランキングも見てみたいです。

 その審査方法も、簡単なアンケート調査ではなく、?顧客満足向上への具体的な取り組みをしているか(CS変数)、?弁護士へのフィーはリーズナブルか、また透明度は高いか、?特定の分野で手がけた件数はどのくらいか(経験件数)、また裁判での勝訴率はどのくらいか(勝訴率変数)、?迅速かつ十分な内容の事件報告を実行できる仕組みを構築しているか(報告変数)、?専門性を向上させるためにどのような自己研鑽に取り組んでいるか(自己研鑽変数)、?クレーム予防及び適切なクレーム対応の仕組みを構築できているか(クレーム変数)、そしてついでに?財務状況は健全か(財務変数)なんてのも加えたほうがいいでしょう。あまり借金ばかり抱えている弁護士に依頼するのも危ないですから。

 こうして見ると、定性的な評価項目ばかりで難しそうですよね。
 しかし、もし弁護士の格付けに社会的ニーズがあるならば、そこにビジネスチャンスが眠っていますので、可能性はゼロではないと思っています。
 こんな時代が来たら、私とALGも格付けでAAAがとれるように頑張ります。